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ドライヴィング理論

わらってたのしいばかまんが
【問】このホームページでは、某人気漫画のバッシングに吝かでありませんが、どの辺がアストロ球団 なのでしょうか?  公道で暴走すること自体の是非はともかく、普通にクルマが走っているだけの漫画 としか思えませんが。
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【答】いやいやいや。  クルマが空飛んじゃマズイでしょう(笑)。
 少なくとも、私が知る実車のAE86カローラ・レビンは飛行機のように空を飛ぶことはありません。
 え? 「漫画に空を飛ぶ話なんて無い」って?  何をおっしゃいますやら。
 空飛んでますでしょ、SW20MR2とのバトルの時に。  そうですよ、ヘアピンカーブのショートカット です。

 では、質問。
 何故ヘアピンカーブのショートカットが、飛行機のように空を飛ぶことになるのでしょう?

 答えは簡単。  飛行機やヘリコプターのように空を飛ばない限り、あのような軌跡を描いてショートカ ットすることは出来ないからです。

 漫画のショートカットシーンを良く見れば判る通り、クルマが高低差をジャンプしています。
 ジャンプしているということは、空中に居る間、タイヤは地面と接していません。
 つまり、Uの字に旋回している途中で、グリップ力の全く得られない区間があるのと同じ状態です。
 では、貴方がUの字カーブを旋回中、突然凍結していたとしたら、クルマはどうなってしまうのか想像 してみてください。
 凍結部分に乗った瞬間、たとえ法定制限を遵守した速度であっても、慣性方向へ一直線にスッ飛ん でコースアウトしてしまいます。
 つまり、実車でヘアピンカーブをショートカットするのであれば、直進コースをとり、グリップがゼロにな ってもコースアウトしない軌跡で道を横切らなくてはなりません。  漫画のように旋回状態のまま飛ん で曲がることはデキナイのです。


 頭文字Dの大嘘シーンをもう一つ挙げておきましょう。
 ユーノスロードスターとのバトルで、匠の駆るAE86が蓋の無い側溝の上を、内側の前輪を浮かせて クリアするシーンがありますが、物理的に実現不可能です。
 著者は、旋回制動中のFF車のリア内輪が浮く現象を見て「FR車で旋回加速すればフロント内輪が 浮く」と思ったのでしょう。 

 でもね。
 旋回中のハチロクの前輪がインリフトするのは物理的に不可能なんですよ。
 分らないかなぁ。
 簡単な話なんだけど。

 ・ 後期AE86諸元データ
 
 乾燥重量:960kg
 フロント軸重:520kg
 リア軸重:440kg
 ホイールベース:2400mm
 フロントトレッド:1335mm
 リアトレッド:1345mm

 フロント軸重520kgということは、旋回あるいは旋回加速時にフロントの左右輪間で260kg以上の荷重 移動が起これば、前輪片側の接地圧がマイナスになります(早い話が浮く)。

 さて、【荷重移動】荷重移動についてもう少しだけ詳しい話 006 「リアだけが異常に柔らかいセッティ ングに生じる現象」 で説明した通り、前後のロール剛性比を著しくフロント剛体&リア柔体にすれば、 荷重移動量の大半がフロントに偏ります。
 では、これでフロント内輪を浮かせることは可能でしょうか?

 諸元データには重心高さがありませんので、とりあえず全高1335mmと最低地上高150mmよりシャー シ高さを1335−150=1185mmだとして、重心高さをその1/3だと仮定すれば150+(1185/3)=545mm となります(ま、常識的な高さですね)。

 トレッドを前後の平均である1340mmと見做せば、1Gで旋回するときの荷重移動量は、
 車重:960kg、 
 重心高:545mm(0.545M)、 
 トレッド幅(タイヤ接地面両端部幅):1.34+0.185(タイヤ幅)=1.525
 のクルマが旋回G:1Gで旋回するとき、 
 [ 遠心力 ] = 960(kg) × 1(G) = 960(kg) 
 [ 荷重移動量 ] = 960(kg) × 0.545(M) ÷ 1.525(M) = 343.085(kg) 

 移動量が343.08kgなのですから、片側に171.54kgの荷重が乗って、もう片側から171.54kgの荷重が抜 けるワケです。
 つまり、前後のロール剛性を著しくフロント剛体&リア柔体にしても、そもそも荷重移動量が足らない のでフロント内輪は浮くことができません。
 旋回Gが1.5Gを超えると荷重移動量が520kgを超えますが、箱車が路面状態の悪い公道でそんな旋 回Gを生み出せる道理がありませんし、幾らロール剛性比を偏らせたからと言って後輪の荷重移動は ゼロになりません。
 おまけに、漫画に登場するハチロクは改造車であり、車高短&エンジンのドライサンプ化に拠って低 重心化されています。
 重心が低くなれば荷重移動量が減りますので、ますます内輪は浮き難くなります。


 では、旋回加速ならどうでしょうか?

 とりあえず直線でフル加速した場合を計算してみましょう。
 ドラッグ仕様でもない後輪駆動車が加速で1Gも出すのは無理ですが、ここは可能だとして計算しまし ょう。
 車重:960kg、 
 重心高:545mm(0.545M)、 
 ホイールベース:2.4M 
 のクルマが加速G:1で加速するとき、 
 [ 加速力 ] = 960(kg) × 1(G) = 960(kg) 
 [ 荷重移動量 ] = 960(kg) × 0.545(M) ÷ 2.4(M) = 218(kg) 

 あたりまえですが、1Gで旋回した時よりも、1Gで加速した時の方が荷重移動量が小さくなります。
 つまり、荷重移動量は、接地点間の距離が長くなれば長くなるほど小さくなってしまうワケです。

 では質問。

 Q:「重心に紐を結わえて水平方向に引く時、その力が作用する接地点間(タイヤ間)が一番短くなる のは、どの方向に引っ張った時でしょうか?」

 判り難いかな?

 では質問を変更。

 Q:「横長さ1340mm,奥行き2400mm,高さ1090mm(重心高さ545mm)というバカでかい箪笥がある。
 これを重心高さで水平に押す時、一番弱い力で箪笥が倒れるのは、どの方向に押した時か?」

 答えは簡単ですね。
 A:「真横から押した時」
 です。

 つまり、同じ水平Gなら、単純な定速旋回の時に荷重移動量が最大になるのです。
 旋回加速時の荷重移動量は、定速旋回時よりもず〜っと小さくなってしまうのです。

 「旋回加速」と聞くと「 [ 旋回G ] + [ 加速G ] で対角線上のタイヤ(フロント内輪)から荷重が多く抜け てしまう」と錯覚してしまいそうになりますが、それは先入観が生む誤解です。
 物理は、単純な幾何計算で [ 定速旋回の荷重移動量 ] > [ 旋回加速の荷重移動量 ] であることを 示しています。

 1Gを遥かに超える水平Gを生み出せば、フロント内輪を浮かすことも可能でしょう。
 しかし、重心が高くトレッドの短い箱車が路面状態の悪い公道で、フォーミューラーマシンがサーキッ トで搾り出す最大Gを出せるワケがありません。

 だから、漫画のようにハチロクのフロント内輪が浮く現象は物理的にありえないのです。












 ここまでボロクソに貶しておいて、フォローするつもりは毛頭ありませんが、「面白い」か「面白くない か」で問われれば、少なくとも「プロジェクトD編」に至るまでの頭文字Dは、面白い漫画だったと思いま す。
 問題なのは読者の方なのかも知れません。
 今更確認するまでもなく、頭文字Dは漫画です。
 だから、面白おかしくするために様々な虚構のエッセンスを盛り込みます。
 滑り易い路面だからと、滑り難い路面を選んで走るのでなく、初めから滑らせてしまうのもそう。  雪 道でカニ走りをするFR車が、ステディな走りに徹する4駆スポーツモデルを猛チャージで追い上げるの もそう。  ヘアピンカーブをありえない軌跡でショートカットしてしまうのもそう。  フロントにエンジンを 搭載したクルマが旋回加速でフロントタイヤを浮かせて蓋の無い溝をクリアしてしまうのもそう。
 みんな漫画を盛り上げるための虚構のエッセンスなのです。
 これをちゃんと虚構として捉えて楽しむのであれば何の問題もありません。
 「ドリフト中の車はアンダーステア」? OKOKなんでもアリアリです。
 問題は読み手の知能レベルなのです。

 かつて私は、某「教えて&教えます」から浮気して、ひとつのQ&A掲示板に投稿したことがありまし た。
 それは、たまたま覗いた掲示板に、頭文字Dの架空世界に憧れるQがあったため、他の迎合的なレ スに混ざって、「あれは漫画。 実際の峠で抜きつ抜かれつなんて自殺行為」と書き込んだだけのこと でした。  しかし、その反応は、「筆者も86に乗っていた」だの、「土屋圭市が監修している」だの、理 路の欠片も無い感情剥き出しな「憤り」でした。
 今尚、「教えて&教えます」に頭文字Dネタが上がると「あの漫画に出てくるテクは全て本物」などとい う発言が飛び出します。
 頭文字Dが如何なる漫画か?と問われれば、間違いなく21世紀版『サーキットの狼』に他ならないで しょう。
 ただ、サーキットの狼が頭文字Dと根本的に異なるのは、「虚構の嘘臭さ」です。
 サーキットの狼は、砂利を落とすダンプを飛び越えたり、油で滑る後輪で超高速コーナリングテクを発 現したり、小学生でも虚構と判る嘘臭さでした。
 それに比べると、頭文字Dの嘘臭さは、少なくとも中学を修めないと見抜けない巧妙な「嘘」です(※ 注)。  現役中学生以下のオコチャマが頭文字Dを鵜呑みにするというのなら分かります。
 しかし、実際にハンドルを握っている人は、少なくとも中学を修めている筈です。
 それがこんなコドモ騙しな虚構世界を信じて、実際に真似て事故を起こしているのですから、ホントウ に悪い冗談としか思えません。
 まともな判断力があれば、虚構以外の何者にも見えない馬鹿馬鹿しい漫画に憤るのも、愚かしい限 りだと思います。
 しかし、読者の知能レベルが余りにも低いのであれば、その知能レベルに合わせた虚構にすべきで はないでしょうか。  少なくとも、実際に漫画を真似た挙句の事故が多発し、その結果として数多くの 走りスポットが閉鎖に追いやられている以上、本当ポイ嘘は止めるべきだと私は考えます。

注釈※:私の綴った自動車工学は、中学で学ぶ理科で十分に理解可能な古典物理に基いています(単に私の知識が中学生 レベルだというだけなのですが・・・)。



■■■ 補 稿 □□□■■■■■□□□□□■■■■■□□ 2004.09.18 ■■

 さて、上に綴った薀蓄に「異議あり!」というメールを頂戴しましたので、返信と併せて掲載させ て頂きます。

> 現実でできるかといわれればどうだかわかりませんけど、漫画やDVDを見てみると
> 飛ぶまでに車とジャンプ地点と着地地点が一直線上になるように位置調整し
> そこから再度加速していますがこの場合だと飛ぶとはいわないまでも、そのまま
> 下の道路に落ちるようになるのではないでしょうか?
> どうも慣性の法則とやらで怪しい点は自分でもうっすらと分かってきましたが。

・・・いやまぁ、たしかに。 ヘアピンカーブ手前でスピンターンし、ゼロ発進で高低差を
飛び降りるのであれば、ヘアピンカーブのショートカットは可能です。
 しかし、実際に九十九折の山道を走ったことが御在れば御存知の通り、ヘアピンカーブの手前で一 旦速度をゼロにした車両が、幾らショートカットしたと言っても、時速数十キロで道なりに旋回する車両 の前に出ることは不可能です。
 これは、百万言を尽くすよりも実際に九十九折の山道にあるヘアピンカーブを目の前にされれば御 理解頂けることと存じます。
 ヘアピンカーブは峠族が攻めるために作られたものではありません。
 傾斜の険しい山肌を登るために折り返す構造がヘアピンカーブなのです。
 ですから、ヘアピンカーブ手前のガードレールで区切られた区間は、高低差が非常に大きく、クルマ が落ちれば燃料タンクが破損して車両炎上に繋がりかねない程の損傷が免れなく、搭乗者も無事では 済みません。
 ということは、逆に言えば「ヘアピンカーブ手前のガードレールで区切られていない区間」は、高低差 が小さく、もしショートカットを試みる馬鹿が居たとしてもクルマの損傷は少なく、搭乗者も大きなケガを 負う虞(おそれ)は大きくありません。

 さて、ここで考えてみましょう。

 先にも述べた通り、九十九折の山道に在るヘアピンンカーブは、険しい山肌を登るための折り返しで す。 当然のことながら、道路の勾配は緩くありません。
 そのようなキツイ勾配の道路にヘアピンカーブを設けた場合、「ヘアピンカーブ手前のガードレールで 区切られていない区間」は、決して長い距離に出来ません
 実在のヘアピンカーブが示す通り、「ヘアピンカーブ手前のガードレールで区切られていない区間」は ホンの僅かです。 ここでスピンターンし、ゼロ発進でショートカットしたとしてタイムを幾ら稼げるでしょう か?
 ・・・もう既にお解かりの通り、空を飛び、空中で旋回しない限り、「ヘアピンカーブ手前のガードレール で区切られていない区間」のショートカットで、敵車の前に出ることは出来ないのです。


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