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内燃工学

【異常燃焼 (1)】 ノッキングって何?
【問】 ノッキングって何?
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【答】 『走り屋&ドリフト』という名前のホームページ上で、何度も説明してきたことですし、内燃工学の 本を紐解けば必ず載っている用語なので、これは割愛するつもりでした。
 ですが、『走り屋&ドリフト』以外のクルマ系Q&Aを覗くと、勘違いや間違った記述が少なくありませ ん。
 いまだに過早着火やデトネーションと混同していたりもします。
 あらためて再確認させて頂きます。

 『ノッキング』とは扉を拳で軽く叩く時の表現『ノック』の現在進行形です。
 したがって、ノッキングと言う言葉自体は、必ずしも内燃機関の用語とは限りません。
 カクンカクンとした動きや、コツコツ/カンカンという甲高い音を発する状態を示す言葉です。
 ですから、平坦な低負荷路を極低速で走行中にエンストしそうになって、車体が前後に揺さぶられる のも「カーノック」という立派なノッキングです。
 それは別に分類して、内燃工学上は「スカートノック」「スパークノック」「ディーゼルノック」が代表的な ノッキングとなります。

 まず、「スカートノック」ですが、これはピストンとシリンダーの隙間が広い時、また、ピストンのスカート 部が短い時に起こります。
  スカートノックは、名前から判断すると、ピストンがピストンピンを中心に振り子運動を起こした結 果、スカート部がシリンダー壁面に干渉して異音を発している現象のように思われます(私もそう思って いました)が、実は違います。
 スカート部は肉厚が薄い分、塑性変形能が高く、シリンダーと干渉してもエネルギーを減衰するため、 スカート部もトップ部もシリンダー壁面へ強く衝突することができません。
 シリンダーと干渉して衝撃音を発するのはピストンの側面です。
 膨張行程では、燃焼ガスの圧力で鉛直方向に押し下げられるピストンが、コンロッドを斜め方向に押 すため、ピストンに側圧が生じます。 圧縮行程でも同様にピストンへ側圧が生じます。 膨張行程と圧 縮行程では側圧のベクトルが逆方向になりますので、ピストンはシリンダーとの隙間の間で往復運動を することになります。 これがスカートノックの正体です。

 このスカートノックは、ピストンとシリンダーのクリアランスが大きい時に起こり易く、その場合にはクラ ンクルームへのブローバイガスが増えて、シリンダー壁面のエンジンオイルが希釈され、危険な状態に なります。
 また、ピストンがシリンダーに干渉することによって壁面に傷が付く恐れがあります。 勿論、ピストン の方も傷付いたり変形したりする虞があります。
 極端な場合には、スカートノックの衝撃音がエネルギーとして冷却水に吸収され、キャビテーションを 起こすこともあります。
 この場合には、シリンダー壁の裏側がキャビテーションに喰われて腐食磨耗してしまうことがありま す。

 「スパークノック」は、ガソリンエンジンの異常燃焼のひとつです。
 圧縮行程で圧縮された混合気に、点火プラグで着火すると、燃焼室内に炎が燃え広がります。
 火の点いた混合気が膨張してピストンを押し、膨張行程に入るのですが、混合気は一斉に燃えて膨 張するのではありません。
 当然、先に火の点いた点火プラグ付近が早い時期に膨張し始めます。
 そして、点火プラグから遠い部分が後に燃え、点火プラグ付近よりも遅い時期に膨張し始めます。
 このため、点火プラグから遠い部分の混合気(これを「エンドガス」と言います)は着火するよりも以前 に、点火プラグ付近の膨張ガスによって圧迫されます。
 圧迫されたエンドガスは、圧力上昇に因って高温になります。
 エンドガスが着火する環境に達すると、火炎伝播を待たずして自己着火してしまいます。
 この燃焼はプラグで着火された燃焼と違って、順次燃焼するのではありません。
 高温高圧に晒された混合気が勝手に燃え出すので、エンドガス全体が同時に燃焼します。
 それは燃焼というよりも、爆発に近い燃焼速度ですから、燃焼室内の圧力を急激に上昇させます。
 この圧力変動が衝撃波として伝わり、甲高い音として聞こえるのがスパークノックです。

 ではスパークノックが起こると何故エンジンに悪影響があるのでしょうか?
 たしかにスパークノックの衝撃波自体が持つ破壊力も看過できません。
 薄いくて靭性に欠ける硬質なピストンリングが、スパークノックの衝撃波で破損する事もあります。
 しかし、スパークノックの恐ろしさは実は別のところにあります。

 その話をする前に、内燃工学の再確認です。
 Q : ガソリンエンジンのピストンやシリンダーが、混合気の燃焼熱で熔けないのは何故?
 まぁ、シリンダーはすぐ近くにウォータージャケットがあって冷却水が流れていますから、「冷却水へ伝 熱するから熔損しない」と考える事もできます。
 しかし、ピストンはクーリングチャンネルがあっても放熱効果はさほど高くありませんから、燃焼熱で 熔けてしまわないのは不思議ですよね。
 実は、ピストンやシリンダーは「断熱層」によって守られているのです。
 この「断熱層(「境界層」ともいいます)」とは、燃焼中の作動ガスが、ピストンやシリンダーの表面に触 れた際に熱を奪われて消火してできた混合気の膜なのです。
 この膜が、ピストンやシリンダーの表面が直接火炎に触れるのを防いでいるのです。
 だから、普通に稼動しているエンジンのピストンやシリンダーは熔損しないのです。

 閑話休題。
 ガソリンエンジンがスパークノックを起こすと、衝撃波でこの断熱層が吹き飛ばされてしまいます。
 そうなると、ピストンやシリンダーの表面が燃焼熱に直接晒されます。
 最悪の場合、熔損してしまいます。
 これがスパークノックの恐ろしさなのです。

 一方、ディーゼルノックの起こる仕組みは、スパークノックと随分違います。
 ディーゼルエンジンの作動ガスは混合気として供給されません。
 燃焼室へ空気だけが吸い込まれ、燃焼行程で燃焼室内へ燃料が少量づつ投入されるのです。
 つまり、ガソリンエンジンは予め混合した作動ガスを燃焼室へ投入し、限られたクランク角度内で一 気に燃焼させるのに対し、ディーゼルエンジンは空気に満たされた燃焼室内に燃料を少量づつ投入し て、膨張行程中ず〜っと燃焼させ続けるのです。
 ですから、ディーゼルノックにエンドガスは関係しません。
 そもそもエンドガスそのものが存在しませんからね(笑)。
 ディーゼルノックは燃料の火点きが悪いと起こります。
 空気で満たされた燃焼室に燃料が投入されても、すぐに燃焼が始まる訳ではありません。
 投入された燃料が高温の空気の熱を吸って、発火温度に達すると自己着火が起こるのです。
 ですから、火点きが悪いと最初に投入された燃料がなかなか燃え出さず、後から投入された燃料と 一緒に一斉に燃え出してしまうのです。
 つまり、膨張行程中ず〜っと燃焼させ続けたいディーゼルエンジンなのに、ガソリンエンジンの様な限 られたクランク角度内で一気に燃焼してしまうのです。
 膨張行程中燃焼させ続けた場合の圧力変動は、燃焼に因って膨張した作動ガスと、ピストンが下が って増大するシリンダー容積が吊り合うので、膨張行程中ゆっくりと安定して上昇します。
 しかし、限られたクランク角度内で一気に燃焼してしまうと、燃焼室内の圧力が急激に上昇してしまい ます。
 この急激に上昇する圧力が、正圧波として聞こえるのがディーゼルノックです。
 ディーゼルノックが起こるとエンジンに悪影響が及ぶのは、ガソリンエンジンの様な断熱層が云々と 言った理屈ではなく、単純に強大な圧力変動にエンジンが耐えられないからです。

 スパークノックの対策は、
 ●燃料を余分に供給して気化熱で燃焼室内を冷却する
 ●点火時期を遅らせてエンドガスに掛かる圧力を軽減する
 ●自己着火し難い燃料(高オクタン価)を使う
 ●機械的には、点火プラグからエンドガスまでの距離を短くする/圧縮比を下げる/過給器付きなら 過給圧を下げる
 ●etc・・・
 ディーゼルノックの対策は
 ●燃料の供給圧力を上げて噴出される燃料を微粒化する
 ●燃焼室内の温度を下げ過ぎない様、吸気を加熱するなどする
 ●自己着火し易い燃料(高セタン価)を使う
 ●etc・・・
 となります。


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