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内燃工学

 高圧縮比で高過給な火花点火式ガソリンエンジンは何故作られないの?
【問】高圧縮比で高過給な火花点火式ガソリンエンジンは何故作られないの?
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【答】 結論だけ先に言っちゃうと、高圧縮比な火花点火式ガソリンエンジンに高過給して稼動させた ら、エンジンが壊れてしまうからです。
 では、何故壊れてしまうのでしょうか?
 その理由を理解する前に、圧縮比UPと過給圧がどういう理屈でパワーアップをもたらすのか?につ いて御理解頂いていかなければならないでしょう。

 さて、圧縮比UPと過給圧UPについて語る前に、反面教師となる誤解例を挙げることにします。

 これは、ウェブサーフ時に偶然遭遇した記事なのですが、普通の人はこういう誤解をするのだという ことを教えて下さった貴重な記事です。

 晒し者にしようとか、馬鹿しようとかいう魂胆で転載しているわけではありませんので、念のため。

 「〜前略〜
 エンジンの仕組みというのは、意外と理解していない方が多いのですが、自動車のそれは「内燃機 関」と呼ばれる種類の機械で、これは、燃料を燃やすと熱くなって体積が膨張するので、その力でピス トンを押し下げて、それをクランクシャフトで回転運動に換える、というものです。

 〜中略〜

 さて、普通のエンジンというのは、針の無い注射器を想像してみてください。 注射器の針のところか ら、ガソリンと空気の混じったガスをちゅうっと吸いこんで栓をして火をつけると、燃えて熱くなります。  熱くなったガスは体積が大きくなりますから、そのまま注射器のピストンを押し下げますね。

  この時、燃えたガスがもしも20倍に膨らむとすると、ピストンは、20−1=19の力で押し下げられま す。

 ここで、ガスを吸いこんだあとで栓をして、一度半分の体積になるまでピストンを押しこんでやると、そ の時には2−1=1の力が必要になりますが、火をつけて燃えたときには、縮める前の体積の20倍に なるわけですから、縮めた後とくらべれば40倍に膨らむことになりますから、ピストンを押す力は、40 −1=39となります。

 最初に1の仕事を投資しておけば、19のはずであったの利益が39に膨らむわけですから、ボロ儲 けですね(^^)。

 〜後略〜

…さて、この記事の何処が間違っているのでしょうか?

 順を追って説明しましょう。

 注射器に混合気を吸い込ませた時、ピストンの吸入ストロークが、シリンダーの根元から1cmの位置 になっていたと仮定しましょう。

 これが燃焼して体積が20倍になれば、シリンダーは燃焼圧によって根元から20cmの位置まで押し出 されます。  もし、押し戻されずに、ピストンがシリンダーの根元から1cmの位置のままであったなら、 シリンダーの内圧は20気圧になるでしょう。

 混合気の体積が半分になるまでピストンが押し込まれたということは、ピストンはシリンダーの根元か ら5mmの位置に在ります。 これが燃焼すれば、半分になった混合気に対する燃焼後ガスの体積は40 倍になります。  ですから、ピストンの位置をシリンダーの根元から5mmに固定すれば、燃焼後のシリ ンダー内圧は40気圧になります。

 20気圧と40気圧を比べれば、たしかに“2倍”です。

 しかし、それはピストンを押し戻す仕事量が“2倍”になったということと同義でしょうか?

 違いますよね。

 少し考えれば判ることですが、混合気の体積が半分になるまで押し込まれたピストンが、燃焼圧で押 し出される時、その道程において、シリンダーの根元から1cmの位置を通過します。
 混合気の量は同じなのですから、ピストンがシリンダーの根元から1cmの位置に達した時点で、シリ ンダーの内圧は、着火前にシリンダーの根元から5mmの位置であった場合も1cmであった場合も同じ です。

 …ということは…

 そうです。

 あらかじめ混合気を圧搾して体積を半分にしても、ピストンが元の位置に来た時点で、圧搾の効果は 無くなってしまうのです。
 つまり、あらかじめ混合気を圧搾して体積を半分することの効果は、「ピストンが圧搾された位置(上 の例ではシリンダーの根元から5mm)から本来のスタート位置まで到達する間において、ピストンが強 い圧力を受けて仕事をする」というだけのことなのです。

 判り易く図解するとこうなります。

 実際の稼動を精緻にシミュレートすると色々とややこしいので、火を点ければ一瞬に燃焼が完了する ものと仮定し、熱損失など様々な要素を一切無視します。

 

 シリンダーの根元から1cmの位置で20気圧の圧力を受け、シリンダーの根元から20cmの位置で大気 圧(1気圧)の圧力を受けるのですから、上圧死点からの膨張行程を表にすると↑のようになります。
 縦軸が燃焼圧力。 横軸がシリンダーの根元からピストン頭頂部までの距離です。

 この場合の燃焼圧がピストンにする仕事量は、↓の青色の面積です。
 

 さて、この注射器を「ガスを吸いこんだあとで栓をして、一度半分の体積になるまでピストンを押しこん でやる」ように圧縮率UPするとします。

 そうすると、 シリンダーの根元から5mmの位置で40気圧の圧力を受け、シリンダーの根元から1cm の位置で20気圧の圧力を受け、シリンダーの根元から20cmの位置で大気圧(1気圧)の圧力を受ける のですから、膨張行程を表にすると↓こうなります。
 

 この場合、燃焼圧がピストンにする仕事量は、↓の青色と緑色の面積になります。
 


 もうお分かりの通り…先程の説明の「ピストンが圧搾された位置から、本来のスタート位置まで到達 する間において、ピストンが強い圧力を受けて仕事をする」という説明の通り、圧縮比2から圧縮比10の 区間の分(=上の図における緑色の部分)だけ、ピストンの仕事量が増えているのです。

 そしてそれは、さほど大きな力ではありません。

 つまり、「最初に1の仕事を投資しておけば、19のはずであったの利益が39に膨らむ」なんてこと は、起こり得ないのです。



 さて、注射器の圧縮比UPについて御理解頂いた上で、レシプロエンジンについて考えてみることにし ましょう。

 燃焼室がシリンダー内径と同じ径の円筒形だと仮定します。
 ピストン頭頂部の形状も平らな円盤状。
 燃焼室の天辺から、下死点までの距離は10cm。

 そして、これは実際のエンジンではなく、脳内実験ですから、吸気行程や排気行程は無視し、燃焼に 時間が掛からないものと仮定します。

 以上の仮定の下で、素のエンジンの圧縮比が5なら、
 
 ↑大気圧の混合気は、ピストンが下死点から8cm圧縮行程することによって、体積が5分の1にな り、圧力が5気圧になります。

 ピストンが下死点から8cmに在る時が上圧死点で、この位置で着火された混合気が一瞬で燃焼しま す。

 注射器の例に倣って、燃焼し終えた混合気の体積は、大気圧比で元の20倍に膨らむと仮定します。

 そうすると・・・

 
 ↑5分の1の容積内で20倍に膨らむのですから、上圧死点における内圧は100気圧になります。

 
 ↑膨張行程が進むにつれて上圧死点で100気圧だった圧力が徐々に減圧していきます。
 上圧死点から2cm進むと内圧は50気圧になり、6cm進むと25気圧、8cm進んだ下死点で20気圧にな ります。

 下死点に達すると排気行程に移行しますが、ここでは脳内実験のため、一瞬で排気が完了し、一気 圧の混合気と入れ替わると仮定します↓
 

 ・・・ここまでがレシプロエンジンの机上の理論における圧力変化の説明です。
 ピストンが受け、出力となる圧力の総和は、
 
 ↑この緑色の面積になります。



 では、これを圧縮比UPや過給したらどうなるでしょうか?

 まず、圧縮比UPについて考えましょう。

 同じ仮定の下で、圧縮比UPエンジンの圧縮比が10だとします。

 大気圧の混合気は、ピストンが下死点から9cm圧縮行程することによって、体積が10分の1になり、 圧力が10気圧になります。
 燃焼し終えた混合気の体積が、大気圧比で元の20倍に膨らむと仮定するなら、10分の1の容積内で 20倍に膨らむのですから、上圧死点における内圧は200気圧です。
 膨張行程が進むにつれて上圧死点で200気圧だった圧力が徐々に減圧し、上圧死点から1cm進ん だ時点で内圧は100気圧となます。  そしてそれ以降、シリンダーの内圧は圧縮比5のエンジンと同じ 曲線を描きます。
 
 つまり、こう↑ですね。



 次に過給について考えます。

 圧縮比5のエンジンへプラス1気圧で過給すると、最初に2気圧の混合気が下死点に在るシリンダー へ入ります。
 2気圧の混合気は、ピストンが下死点から8cm圧縮行程することによって、体積が5分の1になり、圧 力が10気圧になります。
 ピストンが下死点から8cmに在る時が上圧死点で、この位置で着火された混合気が一瞬で燃焼しま す。
 燃焼し終えた混合気の体積は、大気圧比で元の20倍に膨らむと仮定しましたから、上圧死点で燃焼 を終えたシリンダーの内圧は200気圧になります。
 膨張行程が進むにつれて上圧死点で200気圧だった圧力が徐々に減圧し、上圧死点から2cm進ん だ時点で内圧は100気圧、6cm進むと50気圧、8cm進んだ下死点で40気圧になります。
 下死点に達すると排気行程に移行しますが、ここでは脳内実験のため、一瞬で排気が完了し、2気 圧の過給された混合気と入れ替わります。

 そうすると・・・
 
 ↑こうなるワケです。

 おぼろげにも、圧縮比UPよりも過給の方がパワーアップしているように見えると思いますが、更に判 り易くするため、図を重ねてみましょう。

 


 緑色+黒色の面積が、基準となる圧縮比5のエンジン。
 緑色+黒色+青色が、圧縮比UP(圧縮比10)のエンジン。
 緑色+赤色が、過給(プラス1気圧過給)のエンジン。

 こうして見れば一目瞭然。

 最大圧力が同じ200気圧であっても、圧縮比UPによって得られるパワーアップ分(直上の図における青色 に塗られた部分)よりも過給圧UPによって得られるパワーアップ分(直上の図における赤色に塗られた部分マイナ ス黒色に塗られた部分)の方が、面積が広いのです。
 つまり、最大圧力が同じなら、圧縮比UPによって得られるよりも過給によって得られる方が、多くパワ ーアップするワケですね。



 さて、ここで表題に戻ります。

 高圧縮比で高過給な火花点火式ガソリンエンジンは何故作られないのでしょうか?

 答えは簡単。

 低圧縮比で高過給な火花点火式ガソリンエンジンよりもパワーが出ないからです。

 圧縮比を上げれば、上圧死点における燃焼圧は圧縮比の上昇に正比例して高くなります。
 ということは、それだけ過給圧を下げなければ、最大圧力がエンジンの耐え得る最高値を上回ってエ ンジンが壊れてしまうからです。

 上の例において、燃焼室の天辺から1.5cmの位置に上圧死点が来るように圧縮比UPしたエンジンへ 過給すると仮定しましょう。  このエンジンの圧縮比は、10÷1.5≒6.67。  そのまま無過給でも上圧 死点の燃焼圧は、10÷1.5×20≒133気圧 になります。  エンジンの許容する最大圧力が200気圧な ら、許される過給は200÷133≒1.5 、つまり0.5気圧しか過給できません。

 ピストンが下死点から8.5cmに在る時が上圧死点で、この位置で着火された混合気が一瞬で燃焼し、 シリンダー内圧が200気圧になります。
 膨張行程が進むにつれて上圧死点で200気圧だった圧力が徐々に減圧し、上圧死点から1.5cm進ん だ時点で内圧は100気圧、4.5cm進むと50気圧、8cm進んだ下死点で30気圧になります。
 下死点に達すると排気行程に移行しますが、ここでは脳内実験のため、一瞬で排気が完了し、1.5気 圧の過給された混合気と入れ替わります。
 
 ↑つまり、こうです。

 圧縮比5のエンジンへプラス1気圧で過給した場合と比べてみましょう。

 

 わざわざ塗り分けるまでもないと思いましたが、念のため、塗り分けておきましょう。

 

 黄色+黒色の面積が、基準となる圧縮比5のエンジン。
 黄色+赤色が、ノーマル圧縮(5)にプラス1気圧で過給したエンジン。
 黄色+橙色が、圧縮比UP(6.67)にプラス0.5気圧で過給したエンジン。

 一目瞭然。

 まぁ、実際のエンジンは損失など様々な要素が絡みますので、こうも単純な比較だけでは済まないの ですが、少なくとも理論モデルとしては、「シリンダーの最大内圧が同じなら、低圧縮比&高過給ターボ の方が、中〜高圧縮比&中〜低圧縮比ターボよりもハイパワー」になるワケです。

 もちろん、高圧縮比&高過給ターボならもっとパワーがでるかも知れません。
 しかし、それは許容されるシリンダーの最大内圧を超えるため、エンジンが壊れてしまいます。

 もっと高い最大内圧が許容されるなら、低圧縮比エンジンに超高過給した方がもっともっとパワーが 出てしまうのです。
 過給が立ち上がらない領域でのレスポンスや低速域のドライバビリティを無視できない市販車の場合 は、ある程度高い圧縮比に過給せざるを得ませんが、純粋に高出力だけを求めるチューニングカーの 場合、どうしても低圧縮比&高過給ターボになってしまうのです。


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