更新の際に構造を変える事があります。 構造を変えるとアドレスが一から再配分されますので
ブックマーク等でお気に入りのページに飛んだ際に、目的と違うページが表示されることがあります。
その場合は画面一番下の [ TOP ] からトップページへ移動して、トップページから
目的のページへ移動してください。 お手数ですがよろしくお願いいたします。


ドライヴィング理論

 荷重移動とはナニか?
【問】荷重移動ってナニ?

■□◆◇■□◆◇■□◆◇■□◆◇■□◆◇■□◆◇■□◆◇

【荷重移動…雑誌やネット上において、余りにも当たり前に使われる用語でありながら、キチンと用語 解説されることは滅多にありません。 そのため、「これは知ってて当然、説明不要な基本知識なのだ ろう」と思っていました。
 しかし、「ドラテク」などのキーワードで検索エンジンにヒットするホームページの薀蓄を読んでみると、 根本的に誤解している人が結構居るんです。
 一番多いのは、“荷重移動”を“質量移動”と混同しちゃってる人。
 旋回制動時に起こるスピンモードへの移行を、「リアが軽くなってグリップが弱くなるから」と説明して いるのは、書いててオカシイと思わなかったのかな? 遠心力は質量に比例するんだから、質量が移 動しちゃったら、リアタイヤが負担すべき遠心力が小さくなるんだよ。 タイヤの摩擦力は高荷重で飽和 する曲線を描くのに対し、遠心力は質量に正比例するんだから、摩擦力と遠心力のバランスは、質量 が軽くなればなるほど [ 摩擦力 ] の方が [ 遠心力 ] よりも大きく勝るようになる。 だから、リアタイヤ が負担すべき質量が軽くなれば、リアタイヤは滑り難くなって、スピンモードに移行し難くなるのが正 解。 つまり、現実と理屈が矛盾しちゃう。

 たしかに荷重移動に伴う質量の移動はあります。
 しかし、それはサスペンションが伸び縮みすることによって生じる現象であって、荷重移動の本質では ありません。

 具体的な例を挙げて説明しましょう。

 四角錐を思い浮かべて下さい。
 四角形の底面と三角形4枚の側面によって構成される立体物…ま、要するにピラミッドの形ですな。
 喫茶店でソフトドリンクを飲む時に使うストローから蛇腹部分だけを切り出し、それを4個床に立てま す。 この4個の蛇腹の上に尖った方を上にして、四角錐を置きます。 この時、蛇腹は、底面の四隅 に来るように下に置いてください。
 この状態は、四角錐の頂点がクルマの重心、四角錐の底面の4隅がクルマのサスペンションの付け 根になっていると見做すことができます。 そして、ストローの蛇腹部分が各輪のサスペンションです。
 さて、思考実験開始です(道具が揃うなら実際に実験してください)。
 対角でない2個の蛇腹を縮めてみましょう。
 そうすると、四角錐が傾きます。
 これは、ロールやピッチに因ってクルマが傾いている時の姿勢に相当します。
 この状態を四角錐の真上から観察すると、四角錐の頂点が底面の真ん中から移動していることが判 るでしょう。 つまり、クルマの重心が偏ったわけです。
 この現象は、紛れも無い“質量移動”ですから、この現象を捉えて「制動時はリアが軽くなってグリップ が弱くなる」と言うのは間違っていません。 しかし、クルマのホイールベースやトレッドは長く、重心高さ は余り高くありません。 そのため、実車のロール角やピッチ角に因って生じる“質量移動”は僅かで す。

 実は、荷重移動の本質は、“質量移動”ではないのです。

 では、先程の思考実験で用いた四角錐をもう一度思い浮かべて下さい。
 今度は、ストローの蛇腹は敷きません。
 代わりに硬くて粘着力の強いゴムを四角錐の底面の四隅に貼ります。
 そして、床に四角錐を置きます。 もちろん、今回も尖った方を上にして置きます。
 この状態は、四角錐の頂点がクルマの重心、四角錐の底面の4隅に貼ったゴムがクルマのタイヤだ と見做すことができます。
 喩えるなら、今は絶滅したノーサス車高短暴走族仕様ですね(笑)。
 さて、思考実験開始です(道具が揃うなら実際に実験してください)。
 この四角錐の頂点(尖った先っちょ)を水平方向に押します。
 そうすると、四角錐の下に貼った硬いゴムが幾つか潰れてしまうことが判るでしょう。
 この“ゴムの潰れ”は、四角錐が傾くことによって生じた“質量移動”が原因ではありません。
 ボールを床に置き、そのボールの頂上部を水平方向に押した際に、ボールが転がるのと同じ理屈で 「力が作用している」のです。
 
 少々物理学的な表現を許して貰うなら、重心点へ水平方向に作用している慣性力と、タイヤの接地 面へ水平方向に作用した抵抗力に因って、車体に回転モーメントが作用し、その回転を押し留めようと するタイヤが反作用を受ける・・・これが荷重移動の本質「ベクトルの作用」なのです。
 「ベクトルの作用」に関しては、簡単な数式で算出可能です。
 他のページで概出ですが、
 たとえば、制動時のピッチモーメントの場合、車両重量1500kg、重心点高さ0.5メートル、ホイールベース4メートルのクルマ が0.5Gで制動状態にある時、
 [ 制動力 ] = 1500(kg) × 0.5(G)
 したがって、
 [ ピッチモーメント ] = 750(kg) × 0.5(m) = 375(kg・m)
 この時、
 [ 荷重移動 ] = 375(kg・m) ÷ 4(m) ≒ 94(kg)

 また、同様に旋回時のヨーモーメントの場合、 車両重量1500kg、重心点高さ0.5メートル、トレッド1.5メートルのクルマが0. 5Gで加減速なく定常円旋回状態にある時、
 [ 遠心力 ] = 1500(kg) × 0.5(G)   (= [ 四輪のコーナーリングフォースの総和 ] )
 したがって、
 [ ロールモーメント ] = 750(kg) × 0.5(m) = 375(kg・m)
 この時、
 [ 荷重移動 ] = 375(kg・m) ÷ 1.5(m) = 250(kg)



 つまり、荷重移動とはサスペンションが伸縮することによって生じる質量の偏りとベクトルの作用が合 わさった現象なのです。



 さて、ここまでの説明で「荷重移動とは何か?」がご理解頂けたことと存じます。

 では、荷重移動に因って何が起こるのでしょうか?

 それは、摩擦円の大きさが変わるのです。

 旋回時の荷重移動について考えてみましょう。

 荷重移動の中のひとつ、“質量移動”の場合、前述の通り、旋回制動時に前へ質量移動すれば
(1)4輪の摩擦円の内、前2輪の摩擦円が大きくなり、後2輪の摩擦円が小さくなる → ヨーモーメント が大きくなる
(2)前へ質量移動したため、前輪が負担する遠心力がより過大に、後輪が負担する遠心力がより過 小になる → ヨーモーメントが小さくなる
(3)タイヤの摩擦円の大きさは、荷重に対して正比例では無い(=タイヤの摩擦力を表したグラフは、 ある一定の高荷重で飽和する曲線を描く)ため、(1)と(2)の和は、僅かながらヨーモーメントが小さく なる現象となります。

 ところが、荷重移動の中のもうひとつの現象である“ベクトルの作用”は、質量配分の変化を含みま せんから、(1)4輪の摩擦円の内、前2輪の摩擦円が大きくなり、後2輪の摩擦円が小さくなる → ヨー モーメントが大きくなる…という現象のみが起こります。
 そして、余程マンガチックに傾くようなふにゃふにゃサスペンションでない限り、“質量移動”に因っても たらされる荷重移動よりも“ベクトルの作用”に因ってもたらされる荷重移動の方が遥かに大きいので す。
 したがって、基本的なクルマの挙動特性として、旋回中に緩やかな制動を行なえばオーバーステア傾 向を示し、旋回中に緩やかな加速を行なえばアンダーステア傾向をしめすのです。


トップへ
戻る
前へ
次へ