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サスペンション

ヘルパースプリングを使って伸び側ストロークを増やすセッティングは正しいのか?
☆2008.03.09 すみません。 考察が一つ抜け落ちていた所為で結論を間違えていました。 お詫びして訂正します
【問】 ダンパーのロッドにタイラップを巻きつけておき、走行後に確認してみたら、縮み側ストロークにか なりの余裕がありました。  車高調が全高調整式なので、この余裕を伸び側に回してやることに拠っ て、旋回中のイン側タイヤの接地性を向上させたいのですが。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
【答】 発想は間違っていません。
 しかし、今使っているスプリングのまま、全高調整式車高調を弄って、縮み側ストロークを減らして伸び 側ストロークを増やすとバネが遊んでしまいます。

 …と、文章で説明されても分からないと思いますので、ちょっと図解してみましょう。

  ← エクセルのセルに引く罫線を使って簡易図を描きます。

 

 というワケで、高荷重時の伸び側ストロークを詰めてやります。

 

 昔は車高調そのものが違法だったので、全高調整式ではない普通の車高調で車高短にした時に起こ るバネの遊びでも放ったらかしでしたが、今はそうは行きません。
 違法・合法という話を別にしても、バネが遊んでいるとバウンド時などにシートからバネがズレたりして 危険です。
 どうにかして、遊びを誤魔化さなくてはなりません。

 

 折角伸び側のストロークを増やしても、ヘナヘナのヘルパースプリングでは、旋回中イン側タイヤの接 地性向上は望めないようです。

 では、硬くて長いヘルパースプリングを使えばイイのでしょうか?

 

 あれれ。  更に車高ダウンしてしまいました(汗)。

  ← フェンダーやインナーと干渉してしまうかも?

 と言っても車高調ですから、車高の調整はお手の物。
 ちゃんと調整すれば無問題のハズ。
 全高調整式車高調の場合、ロワシートの上下とブラケットの上下で車高が変えれるのだけど…

 

 

 どちらでも」イイように思えますが…違います。

 

 なんのために、バネレートの高いヘルパースプリングを使ったかと言えば、余裕のある縮み側ストロー クを伸び側へ回してやる為。

 どちらの方がより多く伸び側へ回せているか?というと、ブラケットを下げて帳尻合わせした方。

 つまり、全高式車高調で伸びストロークを増やそうとして使ったヘルパースプリング の辻褄合わせをするなら、ブラケットを下げるのが正解なんです。



 …というわけで、
 (1)全高調整式車高調は、余裕のある縮み側ストロークを伸び側へ活用することができる。
 (2)が、縮み側ストロークを伸び側へ回すためには、ヘルパースプリングを介さなくてはならない。
 (3)しかし、へなへなのヘルパースプリングでは折角増やした伸び側ストロークに意味がない。
 (4)そこで、使うならある程度バネレートの高いヘルパースプリングになる。
 (5)ところが、直線上で繋がった二つのバネA、Bの合計レートCは、1/C=1/A+1/Bという式によって求 められるため、ある程度バネレートの高いヘルパースプリングを使うと、メインスプリングとの合計レ ートが非常に低くなってしまう。
 (6)ヘルパーとメインの合計レートが低くなると1G接地時の車高が低くなってしまうため、バネにプリロ ードを掛けるか、あるいは、ブラケットを下げて辻褄を合わせなくてはならない。
 (7)同じ辻褄合わせなら、プリロードよりもブラケット調整の方が伸び側ストロークが多い。
 (8)つまり、伸び側ストローク確保の目的で使ったヘルパースプリングの辻褄合わせをするなら、ブラ ケット調整で行うべし。
 が結論として得られました。

※ 「『直線上で繋がった二つのバネA、Bの合計レートCは、1/C=1/A+1/Bという式によって求められる』が分からない」という声 を頂戴しましたので、本ページの末尾に解説を加えました。 ご参照ください。



 ところで、そもそも「伸び側ストロークを増やすためにヘルパースプリングを使う」と いうセッテイングは正しいのでしょうか?


 今更説明するまでも無く、サスペンションスプリングは荷重を受けて縮みます。
 陥没にタイヤが落ちたり、路面の障害物を踏んだりしてサスペンションスプリングが伸縮するのも、あく まで荷重の変化に対して伸縮しているだけに過ぎません。
 ということは、ジャッキアップしてタイヤを宙に浮かした時にサスペンションスプリングが自由長まで伸び ることができるなら、旋回中のサスペンションに僅かでも荷重が掛かっていれば、サスペンションスプリン グは自由長よりも縮んでいます。
 その状態に対して、ダンパーの縮み代を伸び側に回しても何の意味もありません。  旋回姿勢は変 わらないのです。
 「ダンパーの縮み代を伸び側に回したらこうなるんじゃないかな?」と抱いているイメージ、すなわち、旋 回中のイン側サスペンションが「ぐぐ〜っ」と伸びた姿勢を作り出すためには、サスペンションスプリング のバネレートを下げるしかないのです。
 サスペンションスプリングのバネレートを下げれば、同じ荷重変化に対するサスペンションのストローク 量が増えます。
 そうすると、旋回中のイン側サスペンションが「ぐぐ〜っ」と伸びた姿勢が出来上がります。
 ただし…それは単に同じ水平Gに対して姿勢変化量が増えているだけに過ぎないのですが…

 というわけで、旋回中のイン側サスペンションが「ぐぐ〜っ」と伸びた姿勢を作るためには、サスペンショ ンスプリングのバネレートを下げれば良いのだと解りました。


 さて、ではここでヘルパースプリングを装着すると旋回姿勢が変化する(イン側サスペンションが「ぐぐ 〜っ」と伸びた姿勢になる)理屈について説明しましょう。

 既に触れている通り、直線上で繋がった二つのバネA、Bの合計レートCは、1/C=1/A+1/Bという式に よって求められます。
 そのため、1G荷重で線間密着しないようなヘルパースプリングを用いた場合は、伸び側の動きに於い て、極めてレートの低いメインスプリングのみを使ったのと同じ状態になります。
 だから、ここでヘルパースプリングを装着すると旋回姿勢が変化する(イン側サスペンションが「ぐぐ〜 っ」と伸びた姿勢になる)のです。

 全高調整式車高調の縮み側ストロークの余裕を伸び側に回した結果として、旋回姿勢が変化した(イ ン側サスペンションが「ぐぐ〜っ」と伸びた姿勢になった)ワケではありません。
 あくまで、ヘルパースプリングを介したために、合計バネレートが柔らかくなってしまい、その結果とし て、旋回姿勢が変化した(イン側サスペンションが「ぐぐ〜っ」と伸びた姿勢になった)に過ぎません。


 では、バネレートを下げる目的でヘルパースプリングを使うのは正しい選択なのでしょうか?
 しつこく式を書きますが、直線上で繋がった二つのバネA、Bの合計レートCは、1/C=1/A+1/B です。
 適当な数字を代入してみれば分かりますが、この合計レートはメインスプリングの数字とは掛け離れた 低レートになります。

┌────────┬──────┰────────┐
│メインスプリング│ヘルパー  ┃ 合  計   │
│のバネレート  │のバネレート┃ バネレート  │
├────────┼──────╂────────┤
│        │1kg/mm┃0.8kg/mm│
│        ├──────╂────────┤
│ 4kg/mm │2kg/mm┃1.3kg/mm│
│        ├──────╂────────┤
│        │3kg/mm┃1.7kg/mm│
├────────┼──────╂────────┤
│        │1kg/mm┃0.9kg/mm│
│        ├──────╂────────┤
│ 6kg/mm │2kg/mm┃1.5kg/mm│
│        ├──────╂────────┤
│        │3kg/mm┃2.0kg/mm│
├────────┼──────╂────────┤
│        │1kg/mm┃0.9kg/mm│
│        ├──────╂────────┤
│ 8kg/mm │2kg/mm┃1.6kg/mm│
│        ├──────╂────────┤
│        │3kg/mm┃2.2kg/mm│
└────────┴──────┸────────┘

 バネレートがこんなに下がってしまうと、旋回中に大きくロールした際に2つの現象が生じます。

 ひとつは、イン側前後サスペンションの合計バネレートが下がるために、イン側の伸びストロークが大 きくなってしまうということ。
 一方、縮み側は、ヘルパーが線間密着していればメインのバネレートですから、荷重増に対して 少しし か縮みません。 
 そうすると、旋回中あるいは加減速中の重心が高くなってしまいます。 
 再三述べている通り、荷重移動量は重心高さに依存していますので、重心が高くなると同じ水平Gでも 荷重移動量が多くなります。 
 ただし、前輪側の荷重移動量も後輪側の荷重移動量も同率で増えることになりますので、旋回速度限 界は若干下がりますが、ヨー角速度への影響は大きくありません。


 ヨー角速度への影響が大きいのは、もう一つの現象です。

 バネが伸びて、イン側のバネレートがメイン+ヘルパーの合計になると、そのロール剛性は下がりま す。

 たとえば、リアのバネが伸びて、リアイン側のバネレートがメイン+ヘルパーの合計になると、リアのロ ール剛性が下がります。

 これは、フロントでも同じ。

 前後ともにヘルパースプリングを使用していて、旋回中に前後ともイン側のバネレートがメイン+ヘル パーの合計になった場合は、よりレートの下がった方のロール剛性が(相対比で)下がります。

 そうするとどうなるでしょうか?

 拙稿「【荷重移動】荷重移動についてもう少しだけ詳しい話 006 『リアだけが異常に柔らかいセッティン グに生じる現象』」や同「スタビライザーの強化」で解説させて頂いた通り、前後でロール剛性比に違いが 生じると、よりロール剛性の強い側へ荷重移動量が偏ります。

 つまり、旋回中に前後のロール剛性比が変化した場合、
  イン側のバネレートが下がると、ロール剛性が下がる
    ⇒ イン側バネレートの下がらなかった方へ荷重移動量が偏る
 ・・・のです。

 ということは、リアのサスペンションスプリングにヘルパースプリングを併用した場合は、
  ロール量が大きくなる
   ⇒ リアのイン側ばねレートが下がる
    ⇒ リアのロール剛性が下がる
     ⇒ フロントへ荷重移動量が偏る
     ⇒ 前左右輪の合計摩擦力が下がる
      ⇒ アンダーステア傾向に拍車
 ・・・という理屈で大きくロールした際にスピンし難くなるのです。

 意外でした。

 チューニングショップのデモカーにありがちな、リアサスペンションのスプリングに高レートなヘルパース プリングを併用するというセッティングは、「イン側サスペンションを伸ばして接地圧を稼ぐ」のではなく、 「前後のロール剛性比を変化させてスピンし難くする」のが目的だったのです。

 ただし、このセッティングは、ヘルパーが線間密着から解き放たれた瞬間に、ステア特性が急激に変 化することになります。
 当然、旋回途中からの強アンダーを招いて、アウト側のタイヤバリアーにミサイルアタックする結末に 至りますから、データの蓄積がないシロウトが真似をするのは、危険かも知れません。
 同じように「ロール量が増えるとアンダーステア傾向が強まる」というセッティングでも、バリアブルレート のスプリング1本なら「ロール量が増えるに従って徐々にアンダーステア傾向が強まる」ので、遥かに扱 い易くなります。
 同じ目的でリアスプリングに手を入れるなら、個人的には1本物のバリアブルレートの方を勧めます。
 まぁ、バリアブルレートだと選択肢が狭いので、濃密にセッティングを煮詰めることが出来ませんケド (逆に言うと、ホンの僅かにレートの違うバネを何度も何度も取替えないのであれば、バリアブルレートに デメリットは殆どありません)。

 他にもヘルパースプリングの効能はあるので、簡単に触れておきましょう。
 一つは【固有振動数の問題】です。 
 押し縮めたバネが開放された後、ビヨンビヨンと振動しますがこの振動数はそれぞれバネによって異な ります。 
 この振動数がクルマの動きと同調した場合、乗り心地が大きく損なわれるばかりでなく、タイヤの接地 圧力が激しく変動してしまい走行性能に悪影響を及ぼします。 
 そこで、たとえば上述のように、固有振動数の不適切な6kg/mmのスプリングの代わりに9kg/mmのヘ ルパースプリングと18kg/mmのメインスプリングを使えば固有振動数をズラすことができます。 


 なお、以上の話は、我々のような走り屋や速度競技をする者にとっての話で、街乗り仕様のクルマの 場合は、違う効果を期待することができます。 

 それは、「 [ 乗り心地の良さ ] と [ 車高短 ] の両立」です
 普通、車高を下げると1G接地状態からのサスペンションの縮み代が少なくなりますから、硬いスプリン グを使ってバネの縮み量を減らさなくてはなりません。
 そうしないと、いとも簡単にサスペンションが底突きしてしまうからです。
 ところが、硬いスプリングを使うと乗り心地が極端に悪化します。
 見た目の格好良さだけを目的にして車高を落としているようなユーザーに、姿勢変化を抑える必要など ありませんから、走行性能と引き換えに乗り心地を犠牲にすることは容認し難いことでしょう。
 ところが、ある程度硬いヘルパースプリングを使うことで、「 [ 乗り心地の良さ ] と [ 車高短 ] の両立」 が可能になります。
 通常の運転でストロークする領域を [ ヘルパースプリングとメインスプリングの合計レート ] で柔らかく すれば乗り心地が向上出来ますし、なおかつ、サスペンションが底突きする手前でヘルパースプリング が線間密着するようにセッティングすれば、路面の凹凸に因るサスペンションの底突きも回避できます。
 もちろん、スポーツ走行に向いたセッティングではありませんので、我々には無縁なセッティングですけ どね。



★「直線上で繋がった二つのバネA、Bの合計レートCは、1/C=1/A+1/Bという式によって求められる」の 詳しい解説★

 

 


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