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タイヤ

Sタイヤは、左右輪間で荷重移動しても左右輪の合計グリップ力の低下が少ないのは何故?
【問】Sタイヤは、左右輪間で荷重移動しても左右輪の合計グリップ力の低下が少ないのは何故です か?
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【答】ケース剛性が高いからです。


 ラジアルタイヤは、円筒状の形体を保つためにトレッド部(回転して接地する部分)の内側にスチール ベルトという“箍”を持っています。

 

 クルマが旋回状態にある時、摩擦力が接地面を留めようとするため、慣性方向に移動しようとする重 心に引っ張られて、この“箍”が歪みます。

 

 そして、“箍”が歪むとタイヤの接地面の面圧が偏ります。
 ひとつのタイヤのアウト側とイン側で面圧に差が出てしまうワケです。
 元々ゴムはアモントン・クーロンの摩擦法則に従わず、荷重増に伴って摩擦の増加が緩やかになっ てしまうという性質があります。
 そのため、“箍”が歪んで面圧が偏ると、接地面全体の摩擦力が落ちてしまいます。

 こう書くと「じゃあ、スチールベルトを高剛性にすればイイじゃん」と突っ込まれそうですが、超剛体に すれば

 

 となって、余計に面圧が偏ってしまいます。

 ではどうすればイイのか?

 スチールベルトの剛性を上げた上で、更にタイヤサイド(サイドウォール)の剛性を上げればイイんで す。

 上図を例に挙げて考えてみましょう。
 左側サイドウォールの上部は押し潰れて縮み、同下部は引っ張られて伸びています。 同様に、左側 サイドウォールの上部は引っ張られて伸び、同下部は押し潰されて縮んでいます。

 

 ということは、サイドウォールの伸び縮みがなければ、スチールベルトと言う“箍”は傾くことが出来なく なります。

 サイドウォールの剛性を上げるとタイヤのクッション性が失われるため、乗り心地が酷く悪くなります。
 そのためコンフォート性を求められる普通のタイヤは、徒にサイドウォールの剛性を上げることが出 来ません。
 しかし、Sタイヤなどはある程度コンフォート性能を無視できますので、サイドウォールの剛性を上げ て旋回中の面圧の偏りを抑えることができるのです。



 さて、ここまでを知識として覚えて頂いた上で更に話を進めます。


 荷重が大きくなると飽和する傾向があるとはいえ、基本的に荷重が大きくなるとゴムは摩擦力が大き くなります。

 では、脳内実験です(もちろん、実際に実験して頂いても構いません)。
 サイコロ状の軟らかいゴムの塊を2個と重さの違う錘を2個ずつ,そして紐を用意します。
 
 紐を結わえたゴムの塊1個に錘を載せて、机の上で水平方向に紐を引っ張ります。

・錘が1個=スルスルと滑って、弱い力で移動させることが出来ます。 ゴムの変形は殆どありません。

・錘が2個=やや抵抗が大きいですが、少し強く引けば動きます。 ゴムの変形も僅かです。

・錘が3個=抵抗が大きく、簡単に動かせません。 紐を強く引っ張ると動きますが、ゴムが大きく歪み ます。

 では、ゴムの塊2個に錘4個を載せて引っ張ったらどうなるでしょうか?

 [ 2つのゴムに錘を2個ずつ載せる ] VS [ 片方のゴムに錘を1個,もう片方のゴムに錘を3個載せ る ] で比べたら、
 より強い力で引っ張らないと動かないのは、どちらでしょうか?

 「ゴムは荷重に対して摩擦力が正比例せず、荷重が大きくなるに連れて摩擦力の上昇が穏やかにな る性質があるから、[ 2つのゴムに錘を2個ずつ載せる ]方が合計摩擦力が大きい」
 はい正解です。

 でも、わざわざ脳内実験しているんですから、更なる理由が欲しいところです。
 実は、
・錘が3個=抵抗が大きく、簡単に動かせません。 紐を強く引っ張ると動きますが、ゴムが大きく歪み ます。
 がヒントです。

 紐を強く引っ張られて大きく歪んだゴムは、接地面の面圧が偏ってしまうのです。
 「ゴムは荷重に対して摩擦力が正比例せず、荷重が大きくなるに連れて摩擦力の上昇が穏やかにな る」のですから、
 [ 接地面の圧力が均一 ] の方が [ 同一面の中でも接地圧の高い部位と低い部位がある ] よりも摩 擦力が大きくます。

 クルマのタイヤも同じです。

 トレッド面のゴム(コンパウンド)が同じでも、横力を受けた際にあまり歪まないタイヤの方が、大きく 歪んでしまうタイヤよりも強い摩擦力を発揮できるのです。

 つまり、同じ荷重移動量であっても、

・サイドウォールの剛性が低いタイヤ:
  アウト側のタイヤが歪んで摩擦力が落ちてしまう=左右輪間で大きく荷重移動すると、左右輪の合 計グリップ力が大きく下がる。

・サイドウォールの剛性が高いタイヤ:
  アウト側のタイヤが歪み難いため摩擦力の低下が少ない=左右輪間で大きく荷重移動しても、左 右輪の合計グリップ力の低下が少ない。

 となるワケです。


 ここで先ほど述べた知識を思い出してください。

 Sタイヤなど、走行性能最優先でコンフォート性能を無視したタイヤは、サイドウォールの剛性を上げ て、横力が掛かった際の歪みを抑えてあります。

 ですから、Sタイヤは同時に左右輪間の荷重移動に対して鈍感であり、前後どちらか一方のスタビラ イザーやサスペンションスプリングを強化(もしくは弱化)しても、ステア特性への影響は少な目になる (影響が無いワケではない)のです。


★ちなみに余談ですが、ロープロファイル(低扁平率)タイヤは、タイヤの偏芯を抑えているサイドウォールの面積が狭いため、 構造上、大きな軸重を受けると簡単に偏芯してしまいます。
 ところが、ロープロファイルタイヤが偏芯すると、ホイールの縁(リム部)と地面がサイドウォールを挟んでしまったり(=ピンチカ ット)、ホイールが歪んだりしてしまいます。
 それを防ぐためにロープロファイルタイヤのサイドウォールは剛性を上げて対策してあります。
 この所為でロープロファイルタイヤは乗り心地が悪いのですが、同時に左右輪間の荷重移動に対して鈍感であり、Sタイヤと 同様に前後どちらか一方のスタビライザーやサスペンションスプリングを強化(もしくは弱化)しても、ステア特性への影響は少 な目です。


 …と、Sタイヤの――というか、サイドウォールを高剛性にした際の――利点について述べさせて頂い たワケですが、利点ばかりを読まされると「普通のタイヤもサイドウォールを高剛性にすればイイじゃ ん」と思われるかも知れません。
 でも、メリットを生む効能は同時にデメリットも生みます。
 サイドウォールが高剛性だということは、路面の小さな凹凸が吸収できないということです。
 その害は、単純に乗り心地を悪化させるだけに留まりません。
 タイヤで吸収し切れなかった「路面からの入力」は、車輪を垂直方向へ打ち上げます。
 路面の小さな凸部に乗り上げた車輪が垂直方向へ運動を始めると慣性運動となりますので、車輪が 路面の凸部を通り過ぎても直ちに追従することができなくなり、その瞬間だけタイヤの接地面圧が下が ってしまいます。
 タイヤの接地面圧が下がれば、そのタイヤが生み出す摩擦力も小さくなってしまいますので、サイド ウォールの硬いタイヤは荒れた路面で神経質な挙動を示す傾向があります。

 さすがに、Sタイヤがハイグリップラジアルに負けるシチュエーョンは限られますが、同幅のタイヤでイ ンチアップしたら峠道で遅くなってしまった…なんてことは、そう珍しいことではありません。

 また、サイドウォールの剛性が低ければ高荷重下で強い横力を発揮した際に、タイヤがヨレて接地面 圧が偏り、タイヤのグリップ力が下がってしまうワケですが、これは逆に言うと、タイヤの横力が下がる とタイヤのヨレが戻るということです。
 つまり、サイドウォールの剛性が低いタイヤは、高荷重下で強い横力を発揮させようとすると、タイヤ がヨレてしまいますが、更に車速が上がってタイヤの横滑り率が上がると横力が落ちてタイヤのヨレが 戻ります。
 ということは、サイドウォールの剛性の高いタイヤが、接地面の滑り速度に応じて横力が急に低下し てしまう(=テールスライドした後のヨー角加速度が大きい=スライドコントロールがシビア)のに対し て、サイドウォールの剛性が低いタイヤは、接地面の滑り速度が速くなっても横力の低下が穏やか(= テールスライドした後のヨー角加速度が小さい=スライドコントロールが楽チン)なのです。

 単純に速さ「だけ」を求めない公道用タイヤにおいて、乗り心地は悪いわ、荒れた路面で神経質な動 きはするわ、限界はシビアだわ…というのは、歓迎されないでしょうね。
 だから、単純に「サイドウォールは硬い方が良い」というワケではないのです。

※ タイヤが路面の凸部を踏んで凹むと、その部位の実質半径が小さくなります。
  もし、タイヤの片端が路面の凸部を踏んだなら、タイヤの内側と外側で見掛け上のタイヤ径が変わってしまうため、路面の 凸を踏んだ側へ曲がろうとする動きが生じます(ハンドルを取られる)。
  この現象に関しては、サイドウォールの剛性が高い方が発生し難いため、クルマの仕様に拠っては、「サイドウォールの硬 いタイヤの方が安心してアクセルを踏める」ということもあり得ます。

 更に言えば、剛性の高低が接地面圧の偏りに影響するのは、タイヤ構造のケース剛性だけではあり ません。
 サスペンション取り付け部の剛性が低ければ、横力でタイヤが傾いてしまうために接地面圧が偏りま すが、さすがにソレは論外としても、タイヤトレッドのブロックが横力で歪んでも接地面圧は偏ります。
 このように↓

 

 ドレスアップパーツとしてのロープロフィルタイヤの場合、タイヤ構造のケース剛性は高いのですが、 パターンノイズを抑え、排水性に配慮したトレッドパターンを採用していますので、この“トレッドの歪み に因る接地面圧の偏り”が避けられません。
 それ故に、ドレスアップパーツとしてのロープロフィルタイヤは、荷重移動増に伴う摩擦力の増加がS タイヤほど正比例になりません。
 ですが、この歪みが働くからこそ、ドレスアップパーツとしてのロープロフィルタイヤの限界特性はSタ イヤほどシビアではないのです。
 (逆に言えば、ブロックの剛性が高いスポーツラジアルのロープロフィルタイヤは、限界特性が結構シ ビアです)


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