更新の際に構造を変える事があります。 構造を変えるとアドレスが一から再配分されますので
ブックマーク等でお気に入りのページに飛んだ際に、目的と違うページが表示されることがあります。
その場合は画面一番下の [ TOP ] からトップページへ移動して、トップページから
目的のページへ移動してください。 お手数ですがよろしくお願いいたします。


内燃工学

 空吹かしの時に、過給圧が正圧まで上がらないのは何故?
【問】ターボチャージャー付きエンジンを空吹かしした場合、ターボメーター(連成計)の針は動くものの 正圧まで上がりません。 何故でしょうか?
□□□□□■■■■■□□□□□■■■■■□□□□□■■■■■□□□□□
【答】負荷が極めて低い時にアクセルを開けた場合、タービンの送風量の増加よりも、エンジンの新気 吸入量の増加の方が大きいからです。

 まず、走行中などで、負荷が掛かっている時のことを考えてみましょう。
 排気ガスの圧力でエキゾースト側のタービンが回されると、同じ軸に繋がっているコンプレッサー側の タービンが空気をサージタンクへ送ります。
 この時に、 [タービンのコンプレッサーの単位時間あたり送風量]>[エンジンの単位時間あたり吸気 量] であれば、エンジンに入り込みきれない余分な空気がサージタンク内に溜まります。
 負荷が大きければ、エンジンの回転数は急速に上昇することができませんから、エンジンの単位時 間あたり吸気量が増え難く、サージタンク内に余分な空気がドンドン溜まっていきます。
 この「溜まった余分な空気」の圧力が過給圧(ブースト圧)の正体です。

 ところで、過給圧が上がれば、インテークバルブが開いた際に大量の空気がシリンダー内に押し込ま れますから、見かけ上のシリンダ容積(排気量)が大きくなって高い出力を発生させます。
 スロットル開度が大きくても、負荷が大きくてエンジン回転数の上昇が遅い場合には、
 [エンジンの単位時間あたりの吸気量が増大] → [その吸気に応じた燃料を燃やすと、単位時間あた りの排気ガス量が増加] → [排気ガスによって回されているターボチャージャーの軸回転が速くなる] → [ターボチャージャーのコンプレッサー側の送風量が増える] → [サージタンク内に余る空気の量が 増える] → [エンジンの単位時間あたりの吸気量が増大] ・・・という循環を繰り返して過給圧が上がっ ていきます。

 もちろん、この循環が無限に続くと過給圧が大きくなりすぎてエンジンを壊してしまうため、ターボチャ ージャーには最大過給圧を制限する機構が組み込まれています。
 その機構については、ここでは割愛しますが、この循環は、「スロットル開度が大きくても、負荷が大 きくてエンジン回転数の上昇が遅い」ということが条件になっています。
 では、「スロットル開度が大きくて、負荷が小さい場合」にはどうなるのでしょうか。
 ギアをニュートラルにして、アクセルペダルを踏みしめた時などがそれに相当します。

 ターボチャージャーの付いていないNAエンジンでも、ギアをニュートラルにして、アクセルペダルを踏 みしめれば、あっという間にエンジン回転数が急上昇します。
 これは負荷が軽いため、シリンダー内の燃焼圧力がクランクやクラッチ、カウンターシャフトなどの重 量物を一瞬で加速してしまうからです。
 さて、ここで先程の循環を思い出して下さい。
 ターボチャージャーのタービンが排気ガスで回されてコンプレッサーが送風すると、まず、[エンジンの 単位時間あたりの吸気量が増大] しますが、その吸気に応じた燃料を燃やすと、シリンダー内の燃焼 圧力が大きくなります。
 負荷が軽ければ、この増大した燃焼圧力がクランクやクラッチ、カウンターシャフトなどの重量物を猛 烈な勢いで加速してしまいます。
 クランクやクラッチ、カウンターシャフトなどの重量物が猛烈な勢いで加速されるといういことは、エン ジンの回転数が急上昇することであり、単位時間あたりに排出される排気ガスの量も急上昇します。
 そうなれば、当然、排気ガスによって回されているターボチャージャーの軸回転も速くなるのですが、 比重の高い耐熱合金で作られたタービンは排気ガスの増大に対して軸回転数の上昇が遅れます。
 僅かな過給でも、空吹かしのエンジン回転数を上昇させるには過大な出力になります。
 ターボチャージャー付きエンジンでは、ターボチャージャーの存在が排気抵抗になりますが、それで も、ギアをニュートラルにして、アクセルペダルを踏みしめれば、僅かな過給に因って増大した出力がク ランクやクラッチ、カウンターシャフトなどの重量物を蹴り飛ばして一瞬にしてエンジン回転数が急上昇 します。

 つまり、エンジンの回転数が上昇することによる「単位時間あたりの吸気容積の増加速度」に比べ、 「ターボチャージャーの軸回転速度の加速」が遅れるのです。

 先に述べた通り、過給圧(ブースト圧)の正体は、サージタンクに溜まった余分な空気の圧力でした。
 「ターボチャージャーの軸回転速度」が不十分であれば、エンジンの吸気容積に対して多くの空気は 余りません。
 多くの空気が余らなければ、当然のことながら、サージタンクに溜まる余分な空気も少なくなるわけで す。

 ここまでの説明でカラクリは概ね御理解頂けたのではないでしょうか。

 そして、この理屈は、[スロットルの開度が大きい] & [出力軸に掛かる負荷が小さい] のであれば空 吹かしでなくても当て嵌まります。
 傾斜のない道路で変速ギアが後退や1速になっている場合や、急な下り坂を走行する場合は、エン ジンの出力軸に掛かる負荷は大きくありません。
 こうした状況下で、アクセルを踏み込んでも、負荷が軽いのでエンジン回転速度が急速に上がり、タ ーボチャージャーの送風力上昇が追いつきません。
 ですから、たとえターボメーターの針が正圧に入ったとしても、負荷が低い時に示される最大過給圧 は、負荷が大きい時よりも小さくなるのです。
 よく、「ターボチャージャーの最大過給圧をセッティングする時は、4速もしくは5速で行わなければな らない」と言われるのは、この為です。
 たとえば、2速3速で最大過給圧が0.8kgまで上がったセッティングで、4速5速の全開、または登坂路 で全開走行すると過給圧が1.0kg以上に達してしまい、補器類に余裕が無ければいとも簡単にエンジン ブローしてしまう可能性があります。


 空吹かしでターボメーターの針が正圧へ入るようにすることは簡単です。
 おおまかに言って3つの方法があります。

 ひとつは、スロットルが開いて増大したエンジン軸出力に対して、エンジン回転数が急速に上がらな いようにすることです。
 ウエイトリフティングに使うバーベルの錘のようなヘビーウエイトフライホイールを装着するとか、クラ ンク軸からベルト駆動で大きな発電機や発熱機を回すとか・・・要するに負荷を掛ければ良いのです。

 もうひとつは、ターボチャージャーの軸回転速度が容易に上がるようにしてやることです。
 ターボチャージャーのブレードの材質を、セラミックやプラスチックに換えて慣性重量を軽くしてやる。  ターボチャージャーのハウジングサイズ・ブレードサイズを小さくして容量を下げる。 ターボチャージ ャーのブレードの形状を変更して低流量時の効率を上げる。 A/R比を変えてブレードに干渉するガス 流量の割合を多くする・・・などの工夫があります。

 最後のひとつは、軽負荷時の空燃比を濃くすることです。
 エンジンの空燃比は、常に理論空燃比を目指して調整されているわけではなく、負荷が低い時は空 燃比以下に制御されています。  このために同じスロットル開度でも軽負荷時は、高負荷時に比べて 1行程あたりの排気ガス量が少なくなるので、タービンを力強く回すことができません。  ですから、燃 調マップの軽負荷領域の空燃比を濃くしてやると、空吹かしや低いギアで平地や下り坂を急加速した 際に、過給が早く立ち上がるように出来ます(燃費がメチャメチャ悪くなるけどね)。

 ・・・ しかし、前2者は目的が手段であって、走行性能を向上させる手段ではありません。
 ひとつめの方法は、損失を増やしているだけですし、ふたつめの方法は、(ブレードの材質変更は別 として)走行時にターボチャージャーが大きな排気抵抗となってしまい、また高出力に見合うだけの送風 量が得られません。
 後者も、一応走行性能は向上するものの、トレードオフとなる燃費の悪化がすさまじく、ススやスラッ ジなど燃焼生成物の発生も多くなります。  軽負荷なら過給圧が正圧にならなくても、フルスロットル での吹き上がりは十分に早いので、普通のガソリンを使う車両の場合はデメリットばかりが目立つよう になってしまいます。


トップへ
戻る
前へ
次へ