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ドライヴィング理論

 旋回中にニュートラル
【問】旋回中にニュートラルにすると、車両が外乱に対しタフネスが低くなるといいますが、これはなぜで しょうか?
感覚的にも、経験的にも何となく分かるのですが、いまいち、理論的に分かりません。
(スミマセン、折角なんで原文ママです)

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【答】細かい検証をする前に確認しておかなくてはならないことがふたつあります。
 一つは、そもそも「車両が外乱に対しタフ」とはどういう状態なのか?ということです。
 言葉通りに受け止めれば、「走っている車両が外乱を受けても、走行予定ラインが頑として変化しな い」という意味になるでしょう。
 しかし、戦車じゃあるまいし、タイヤが転がって前へ進む自動車が外乱を受ければ、大なり小なり走 行予定ラインから逸れて当然です。
 であれば、「車両が外乱に対しタフ」とは、「外乱を受けて走行予定ラインを逸れた時に、舵角がその ままでも危険な状態に陥り難い」と考えるべきではないでしょうか。
 つまり、進行方向に対する修正舵の必要性が少ないということです。

 もう一つは、カットされる駆動力が加速力であるのか、一定速度を維持するためのものであるのか、 あるいは減速力であるのかということです。
 縦方向に割けるグリップ力を超えてしまう大きな駆動力を与えた場合を除いて、加速して後荷重にな ればアンダーステアとなります。
 逆に、摩擦円の内、縦方向に割けるグリップ力を超えてしまう大きな制動力を与えた場合を除いて、 減速して前荷重になればオーバーステアになります。

 この知識を踏まえた上で、まずは、旋回中の車両へ軽い駆動力が与えられている時に、駆動力をカ ットする場合について検証してみましょう。

 走行中のクルマは、空気抵抗やタイヤの摩擦、タイヤの軸受けの摩擦など様々な要因によって制動 され続けています。
 そのため、軽い駆動力によって加速されている、あるいは一定速度が保てている車両の駆動力をカ ットすれば、空気抵抗や様々な摩擦力に因ってクルマは制動されます。
 一定速度で定常円旋回を継続する状態から制動されれば、前荷重となる荷重移動と車速低下によっ てクルマの軌跡は円の内側へ入ります。  つまりオーバーステアへ移行します。
 もちろん、その時のオーバーステアへの移行は穏やかであり、ドライバーは無意識の内に転舵量を 減らしてクルマの走行ラインを修正しますので何の問題も生じません。
 しかし、ここに「外乱」という要素が加わると問題が生じます。

 「外乱」には「横風」や「路面のうねり」「路面の摩擦係数の変化」など様々なものがあり、いずれもク ルマの挙動を乱す要因となりますが、作用原理は各々異なります。
 しかし、いずれも旋回中に作用すると進行方向に影響を及ぼすと言う点では同じです。
 旋回中の車両が強い外乱を受ければ、車体の横滑り角が減少したり増加したりします。
 それは、恰もアンダーステアを呈したり、オーバーステアを呈したかのように振舞います。
 アンダーステアを呈したように振舞う時、クルマのヨー角速度は減速されます。
 この時、車両の進行軌跡は、定常円から逸します。
 定常円から逸した車両は、車体の横滑り角が小さくなることに因って、一時的に大きな半径の軌跡を 描きます。
 そして、もし舵角が固定されるのであれば、前後輪の横滑り角の差によって元の角速度までヨー角速 度を増し、別の座標に同じ半径の定常円を描こうとします。
 つまり、アンダーステア傾向を示す車両は、旋回中に外乱を受けても道幅に十分な余裕があれば自 爆に至る可能性は低いのです。

 一方、オーバーステアを呈したように振舞う時、クルマのヨー角速度は加速されます。
 この時も車両の進行軌跡は、定常円から逸しますが、増えたリアタイヤの横スリップ率によってヨー 角慣性モーメントが熱エネルギーに変わります。
 もしオーバーステアへの移行量が小さく、なおかつ舵角が固定されるのであれば車両は再びヨー速 度を減らし、別の座標に同じ半径の定常円を描こうとします。
 しかし、もしオーバーステアへの移行量が大きい場合、ヨー角速度の上昇に伴って車体の横滑り角 が増え、(タイヤの摩擦力が無限大であるなら)渦巻き状に旋回半径を縮めて行きます。
 現実にはタイヤの摩擦力は有限であり、尚且つ、タイヤは一定の横滑り角を超えるとエネルギー消 費効率が落ちますので、増えすぎた横滑り角はエネルギー消費効率を低下させ、最終的にスピンモー ドへ入ります。
 たとえ「弱」であるにせよ外乱を受ける前にオーバーステア状態にある車両では、もともと遠心力に対 する摩擦円の余裕は、前輪よりも後輪が少なくなっています。
 したがって、外乱を受ける前にオーバーステア状態にある車両が、外乱によってヨー角速度に加速度 を与えられた場合、比較的簡単にスピンモードへ入ってしまう虞があるのです。

 先述した通り、駆動によって一定速度が保たれている状態から駆動力をカットすると、フロント側へ荷 重移動してアンダーステア傾向が弱まります。
 それゆえ、駆動力がカットされた状態では、外乱に対して安定性を欠くことになるのです。


 次に、旋回中の車両が、軽いエンジンブレーキに因って制動力が与えられている時に、駆動力(=エ ンジンブレーキ)をカットする場合について検証してみましょう。
 この場合は、エンジンブレーキが掛かっている状態が前荷重ですから、駆動力をカットすればエンジ ンブレーキから開放されることによって前荷重の度合いが低くなり、オーバーステアが軽減されます。
 したがって駆動力をカットした方が外乱に対して安定するかのように思われます。
 しかし、前述のような加速力がカットされた時に比べると、エンジンブレーキは荷重移動量も大きい代 わりに減速率も大きくなります。
 駆動力をカットした瞬間に限って外乱の影響を捉えれば、前荷重が軽減されることに因って安定する と言えるでしょう。
 ところが、エンジンブレーキが掛かっているということは、速度が落ち続けているということです。
 コーナーの進入で時速40kmであったクルマが、エンジンブレーキを掛けた状態で旋回し、クリッピン グポイントで時速35kmになっていたと仮定しましょう。
 同じクルマで同じコーナーを曲がる時、進入で時速40kmからギアをニュートラルにしてたとすればどう なるでしょうか。
 空気抵抗やタイヤの摩擦、タイヤの軸受けの摩擦などの走行抵抗に因る速度低下は緩やかですか ら、クリッピングポイントでも時速38kmくらいにしか低下しないと予想されます。
 もし、クリッピングポイントを時速35kmで通過することがこのクルマにとって物理限界であるなら、時 速38kmでの旋回軌跡はクリッピングポイントから遠ざかってしまいます。
 物理限界でなくても、旋回速度が高いほどタイヤの摩擦力は余裕が少なくなって外乱に対する抵抗 力を失います。

 それゆえ、駆動力(=エンジンブレーキ)がカットされた後は、外乱に対して安定性を欠くことになるの です。


 他にも、駆動力の有無に因って、外乱に対する安定性が左右される力学的な理由があります。
 それは、駆動力が掛かっていると、サスペンションのブッシュが拘束されということです。
 つまり、ニュートラルにすると、外乱に対して駆動輪のサスペンションのブッシュが変形しやすくなり、 コンプライアンスステア量が大きくなり易いのです。
 コンプライアンスステア自体は、車両を安定させるためにメーカーが設計したものですが、外乱に因っ て過大な入力になると設計した意図とは異なる受動転舵状態に陥ることがあります。
 このためドライバーの予測しないステア変化が起こり易くなり、外乱に対する抵抗力が下がるので す。



 ・・・と、まぁウダウダ述べましたが、走行中にエンジン軸と駆動輪を切り離した際にドライバーが不安 を感じる理由は、運動力学で説明されるものだけではありません。

 エンジン軸と駆動輪が切り離されることに因って、ドライバーがクルマを制御する手段が一つ減ってし まうということにも起因しています。

 モータースポーツとしてクルマに接するドライバーは繊細にして鋭敏であり、非常に大きな個人差を持 つものの、意識的・無意識的に既知体験をフィードバックさせてクルマの挙動を制御しようと努めていま す。
 そして、そのようなドライバーは、同じ舵角でも、アクセルのON/OFFに伴ってヨーイングスピードと 旋回半径が変わることを知っています。
 これは、モータースポーツとしてクルマに接するドライバーには体に馴染んだ既知体験です。
 しかし、エンジン軸と駆動輪が切り離されれば、アクセルのON/OFFによる微調整が利きません。
 つまり、モータースポーツとしてクルマに接するドライバーにとって、エンジン軸と駆動輪が切り離され ることは、クルマをコントロールする手段が減ることになります。
 だから不安を感じるのです。

 実際のところは、前述の力学的理由よりも、この心理的理由の方が大きいかも知れませんね。


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