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タイヤ

タイヤが減るとグリップ力が小さくなるワケ
【問】タイヤが減るとグリップ力が小さくなると言われます。 ブロックが無くなるまで減ってしまえば、面 圧が下がるのでグリップ力が小さくなるのも理解できるのですが、溝が浅くなっただけでグリップ力が小 さくなる道理が分かりません。
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【答】まず最初に釘を刺しておきます。  「ブロックが無くなるまで減ってしまえば、面圧が下がるので グリップ力が小さくなる」という発想は間違っています。
 面圧とは「単位面積あたりの荷重」です。  一方、摩擦力は、[単位面積あたりの摩擦力] × [面積]  です。  アモントンの摩擦法則に拠れば [単位面積あたりの摩擦力] = [摩擦係数] × [単位面積あた りの荷重(面圧)] なのですから、[面圧] = [荷重] ÷ [接触面積] である以上、摩擦力は面積に依存ま せん。
 しかも、他項(「左右輪間で荷重移動しても両輪の生む摩擦力は同じでは?」)でも述べた通り、タイ ヤの摩擦力は、飽和する曲線を描くため、[荷重] × [面積] が同じでも、単位面積あたりの荷重が小さ く、面積が広い摩擦」方が、「単位面積あたりの荷重が大きく、面積が狭い摩擦」よりも摩擦力が大きく なります(だから、細いタイヤよりも太いタイヤの方が、グリップ力が大きいのです)
 つまり、面圧という観点だけで捉えた場合、ブロックが無くなるまで減った方がグリップ力は大きくなる のです。

 では何故タイヤが減るとグリップ力が小さくなるのでしょうか?
 それを理解するために、まず「グリップ力」という曖昧な概念を、もう少し物理学的な表現に置き換え ることにしましょう。
 グリップ力とは、つまりは運動エネルギーの消費なのです。
 摩擦係数がゼロで尚且つ空気抵抗など運動エネルギーを減衰させる要因がなければ、慣性運動す る物体は永遠に等速で移動し続けます。
 摩擦とは、この運動エネルギーを、熱エネルギーや焼き付き損耗などに変換して消費する現象なの です。  したがって、接触する物体同士に速度差という運動エネルギーの差異がなければ、喩えそれ がSタイヤとサーキット路面であっても、摩擦力はゼロということになります。

 さて、グリップ力=摩擦力=運動エネルギーの消費という概念を念頭に置いた上で、タイヤの磨耗と グリップ力の関係を考証してみることにしましょう。
 グリップ力は運動エネルギーの消費ですから、理由が何であれ、運動エネルギーがより多く消費され さえすれば大きなグリップ力が発揮できる理屈になります。
 ですから、タイヤの表面が削れたりブロックが飛んだりするのも運動エネルギーの消費であり、グリッ プ力として機能するのですが、タイヤが最も効率良く運動エネルギーを消費するのは、やはり「運動エ ネルギーを熱エネルギーへ変換」することです。
 十分山近いタイヤと磨耗したタイヤのグリップ力が違う理由は、主にこの運動エネルギーを熱エネル ギーに換える効率が違うことにあるのです。

 では、何故十分山近いタイヤと磨耗したタイヤは、運動エネルギーを熱エネルギーに換える効率が違 うのでしょう。  その答えは、タイヤがゴムで出来ているという点にあります。  ゴムは可塑性と復原 性に富み、外部から応力を与えられて変形すると発熱します。  つまり、ゴムは撓ったり伸び縮みした りする際に、運動エネルギーを熱エネルギーに変化するのです(これを『ヒステリシス・ロス』と言いま す)。
 十分山近いタイヤは、磨耗したタイヤよりもヒステリシス・ロスが多い・・・だから、十分山近いタイヤの 方が磨耗したタイヤよりも高いグリップ力を発揮できるのです。

 さて、ではこういう疑問が沸く貴兄もおられるのではないでしょうか?
 「だったら、ゴムが厚ければ厚い程グリップ力が大きくなるのではないのか?」と。
 その発想は尤もですが、正鵠を射ていません。
 大きなヒステリシス・ロスを生むためには、ゴムを変形させる応力が与えられなければなりません。
 厚み方向に長いゴムブロックが大きく変形すると、接地部位が歪んで地面と平行ではなくなります。   つまり、地面と接触する圧力がブロック表面の各位置で異なってしまいます。  先述(他項「左右輪 間で荷重移動しても両輪の生む摩擦力は同じでは?」参照)の通り、荷重が偏るとタイヤの摩擦力は 低下してしまいますから、地面と接触する圧力がブロック表面の各位置で異なると、ブロック表面の総 摩擦力は小さくなります。  ブロック表面の総摩擦力が小さいということは、ゴムブロックを大きな力で 変形させることが出来ません(ゴムブロックが大きく歪む前に、ブロック表面の摩擦力が負けて滑ってし まいますからね)。
 つまり、ゴムが厚く成り過ぎると、ブロックの歪みが接地面の摩擦力を奪って、ブロックが大きく歪む まで応力を与えることが出来なくなるのです。
 言い換えれば、ブロックが歪むとブロック内部のヒステリシスロス(=摩擦損失)が増え、同時にブロッ クの歪みによって接地面圧に偏りが生じて、タイヤ表面の摩擦損失が減るわけです。
 だから、最適なゴムの厚さ(タイヤ表面のコンパウンドに拠って決まる適切な [ブロック表面積] / [ブ ロック厚さ] の比)が決まってしまうのです。

 もちろん、減る分を見越して、新品タイヤの[ブロック表面積] / [ブロック厚さ] の比が、最適値よりも 小さく設計されていた場合、そのタイヤは、[ブロック表面積] / [ブロック厚さ] の比が最適値になるまで 減った時に最高のグリップ力を発揮することになります。  Sタイヤなどに見られる「新品の半分位ま で減った方が良く食い付く」現象の理由はコレです。

 2004.12.19
 誤解しておられるメールを頂戴しましたので補足しておきますが、もちろん、Sタイヤだけが「新品の 半分位まで減った方が良く食い付く」 のではありません。
 普通のラジアルタイヤでも、新品タイヤの[ブロック表面積] / [ブロック厚さ] の比が、最適値よりも小 さいのであれば、そのタイヤは、[ブロック表面積] / [ブロック厚さ] の比が最適値になるまで減った時 に最高のグリップ力を発揮することになります。  
 ただし、走行に因って減った場合は、コンパウンドの経年変化(←長時間走って減った場合)や熱変化(← サーキット走行などで減った場合)で劣化していることが多い為、大概は単純に減るに従ってグリップ力が低 下します。
 もし、新品のスポーツラジアルタイヤで、敢えてSタイヤのタイムに挑もうとするのであれば、タイヤバ ランサーか何かに取り付けた状態で、削ってしまいましょう。  もし適切に加工できたのなら、理屈上 は、その方がハイグリップ化することになります。  ただし、どの位削ったら最強なのか判らないのが 困りモノですが…



 ちなみにスタッドレスタイヤの場合、サイプ(ブロックの刻み)の角を路面の凹凸に引っ掛け、ブロック を変形させてヒステリシス・ロスを得ています。  圧雪路などの路面の凹凸は摩擦係数が異常に小さ く、僅かな応力でも引っ掛かりが外れてしまう反面、角で引っ掛けている分、ブロック表面が路面と平行 でなくても問題がありません。  そのため、[ブロック表面積] / [ブロック厚さ] の比を小さく(表面積の 割りにブロックを厚く)し、小さな応力でブロックが大きく歪むような構造になっているのです。  ただ し、この理屈が効くのは「雪に引っかかる」場合だけです。  それ以外は、夏タイヤと同様に、ブロック が歪むとブロック内部のヒステリシスロス(=摩擦損失)が増え、同時にブロックの歪みによって接地面 圧に偏りが生じて、タイヤ表面の摩擦損失が減るのがジレンマとなります。


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