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ブレーキ

何故ブレーキ・キャリパーが開くのか(スリット入りローターに関する考察)
【問】エンジンの回転数を上げて、渾身の力を込めてブレーキペダルを踏みしめても、キャリパーはビク ともしないんですが...
 サーキット走行でキャリパーが開いてしまうのは何故?
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【答】誤解を恐れずに言えば、ブレーキキャリパーと云うのは、
 ハードユースで開くのが宿命の構造なんです。

 というのも、ブレーキローターが1回転する間にブレーキパッドが擦れる距離は、
 ローターの内側と外側で異なります。
 これは単純に [ 円周の長さ ] = [ 径 ] ×π だからです。

 消しゴムを紙に押し当てて引き摺れば分かる通り、同じ圧力で押し付けるなら
 長い距離を引き摺る方が早く磨り減ります。
 つまり、ブレーキパッドは内周側よりも外周側の方が早く減るんです。

 通常の使用でブレーキパットの内周側と外周側が同じように減るのは、ハードブレーキが
 少なくて掛かる圧力が弱いために、さして強度に優れないブレーキキャリパーであっても、
 減りの少ない内周側をしっかりと押さえて制動するからです。

 賢い読者なら話が見えてきたのではないかと存じますが、もう少し説明を重ねます。

 ちょっと拙い絵ですが、エクセルのオートシェイプ機能で進行方向から見た
 ブレーキの断面図を描いてみました。

 

 銀色の部分がブレーキローター,黒い部分がブレーキキャリパ―(筐体),
 黄色い部分がブレーキピストン,茶色い部分がブレーキパッドです。

 掛かる圧力に関係なく、長い距離を引き摺るブレーキパッドの外周側は
 内周側よりも早く磨り減りますから、使い始めたブレーキパッドは(ちょっと誇張して描くと)
 ↓のようになっています。

 

 ↑少し分かり難いかな?

 沢山減った外周部は、ローターとパッドの間に少し隙間が出来ていて、
 余り減っていない内周部は、ローターとパッドが密着しています。

 

 この状態で強いブレーキを掛けると、
 [ ブレーキパッドの内周側に掛かる圧力 ] > [ 同、外周側に掛かる圧力 ] になります。
 圧力が最大になるのは内周側の端「A」です。

 キャリパーに掛かるストレスは、Aからキャリパ―を開こうとする力ですので、
 キャリパーの剛性が足らないと(見て分からない程度に)キャリパーが歪んで
 外周側の端「B」もローターへ強く押し当てられることになります。

 公道遵法運転のように強いブレーキを繰り返さない場合は、 
 [ ブレーキパッドの内周側に掛かる圧力 ] > [ 同、外周側に掛かる圧力 ] なので、
 強い圧力を受けて摺動するブレーキパッド内周側が沢山磨耗することになり、
 ブレーキパッドは均一に磨耗していきます。

 ところが、剛性の高くないキャリパーでサーキット走行などハードなブレーキばかりを繰り返すと、
 キャリパ―が歪んで  
 [ ブレーキパッドの内周側に掛かる圧力 ] ≒ [ 同、外周側に掛かる圧力 ] となり、
 引き摺る距離の長い外周側の磨耗が一段と進みます。

 つまり、ハードブレーキの度にブレーキパッドは外周側ばかりがドンドン削れて行き、
 その形状に合わせて剛性の低いキャリパーが“開く”ワケです。
 (キャリパーの剛性が余りにも低過ぎる場合は、[ ブレーキパッドの内周側に掛かる圧力 ] < [ 同、外周側に掛かる圧力 ] と なります)

 

 ですから、ハードブレーキ時に瞬間的に開いてしまったキャリパーも、歪んだ量が
 弾性変形能以下であれば、ブレーキを緩めれば元に戻ります。
 歪んだ量が永久変形に達していれば、開いたままになってしまいます。



 さて。

 実は、ここまでが掴みで、ここからが本論。

 ブレーキパッドとローターの摩擦もタイヤと路面の摩擦のように凝着 → 剥離の繰り返しや
 掘り起こし抵抗に依存していますので、荷重と摩擦力の関係が完全に F=μNの関係に
 なりません。

 したがって、ブレーキの性能を最大限に発揮するためには、ブレーキパッドは外周部も内周部も、
 回転方向前方も後方も、均一な圧力で押さえつけられるべきなのです。

 そういう意味で言えば、強度に優れたキャリパ―というのは、ブレーキ性能が低いのです!

 前述の通り、剛性に優れたブレーキキャリパ―の場合は、サーキット走行などで
 ハードブレーキを繰り返しても 
 [ 余り減っていないブレーキパッドの内周側に掛かる圧力 ]
   > [ 多く減っている外周側に掛かる圧力 ] が維持されます。

 最初に摺動距離の違いによって生じた「内周側と外周側の磨耗量の差」を維持するカタチで、
 外周側よりも内周側の摩擦力が大きい状態が維持されてしまうのですね。
 ( [ 〔 弱い圧力×速い摺動 〕 の外周部磨耗量 ] と
   [ [ 強い圧力×遅い摺動 〕 の内周部磨耗量 ] が釣り合い続ける)

 しかし、それでは、せっかく大きなブレーキローターを装着して、より外周に摩擦力を
 与えるようにしたのが無駄になってしまいます。

 では、どうすれば良いのでしょうか。

 - 答え其の壱 -

 ・ 敢えて剛性の低いブレーキキャリパ―(筐体)を使う。

  これは、前述の通り、剛性の低いキャリパ―なら開いて内外周の荷重が近くなるので、
  剛性の高いブレーキキャリパ―よりもむしろ良く効く。
  しかし、ブレーキ液の移動量が多くなるのでペダルを踏んだ感触がスポンジ―になり、
  コントロール性が落ちる(フェードやベーパーロックの兆候も読み取り難くなる)。


 - 答え其の弐 -

 ・ ローターの有効な内周を大きくする。

  これは、割と良く採られる対策。 最外周部と最内周部の直径差を小さくすることで、
  外周部と内周部の摺動距離の差を小さくして、ブレーキパッドの外周部と内周部の磨耗差を
  少なくする。
  しかし、折角大きなパッドを使って大きな摩擦面積が得られるのに、
  それを得ない選択肢となる。


 - 答え其の参 -

 ・ ローターにスリットを設ける。

  これの効果は、通常、「ブレーキパッドの表面に生じたガスをスリットから逃がすこと、および、
  炭化,変質したブレーキパッドの表層を削り落とすことに因って制動力を増す」と
  捉えられていますが、それだけでは正鵠を射ていません。

  スリットの上を通過する際、磨耗の少ない内周部は強い圧力でスリットへ押し付けられて
  沢山削れますが、磨耗の多い外周部は弱い圧力でしかスリットへ押し付けられないので
  余り削られません。
  つまり、スリットによって内外周の偏磨耗が適正化されるワケです。
  そのため、ブレーキパッドは外周部も内周部も、均一な圧力で押さえつけられるようになり、
  ブレーキの性能が最大限に発揮されるようになるのです。

  また、ちょっと余談ですが、ブレーキローターにスリッを設けると猛烈な勢いでブレーキパッドが
  減りますが、これは単に「スリットがパッドを削っている」というよりも、
  「長い摺動距離で多く減った外周部の磨耗量に合わせて、減りの少ない内周部を削っている」
  が正しい。
  つまり、
  外周部 → 殆どは摩擦で磨耗 / 内周部 → 摩擦でも磨耗するがスリットでも削られて減る
  なのです。


 結論。
 折角高いお金を払って高剛性なブレーキキャリパーを奢ったなら、
 ドーナッツのような内外周の径差が少ないタイプで無い限り、ローターはスリット入りにするのが吉。
 たしかにパッドの減りは糞早いのでランニングコストが高く付いてしまいますが、
 スリット無しで使うのはある意味、「宝の持ち腐れ」だと思います。


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