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サスペンション

全長調整式車高調とプリロード
【問】全長調整式車高調(サスキット)は、プリロードを掛けることが出来る」と聞きました。 プリロードっ て予めバネを縮めておくことなんでしょうか。  だとしたら何のメリットがあるのでしょう?  良いことな んて無いと思うのですが。
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【答】インターネット上では、「全長調整式車高調の特徴はプリロードを任意に調整できることで、プリロ ードとは、あらかじめバネを縮めておくこと。 プリロードを掛けることによってバネを固くすることができ る」という説がまかり通っているみたいですが、これはトンデモなく強烈な大間違いです。

 いや、「全長調整式車高調の特徴はプリロードを任意に掛けれること」は間違っていませんし、「プリ ロードとは、あらかじめバネを縮めておくこと」も間違いじゃありません。 しかし、全長調整式サスキット のセッティングとして、あらかじめバネを縮めておくことは間違いなのです。

 そして、普通に考えれば簡単に解ることですが、プリロードを掛けたからといって、バネレートが上が るわけではありません。

 たとえば、自由長が200mmのバネを装着したクルマがあるとしましょう。
 そのバネが静止荷重で50mm縮まれば、縮んだバネの長さは150mm。
 これは、あらかじめ20mm縮めておいても、30mm縮めておいても同じです。
 そして、走行中の加減速や旋回、路面のうねりなどに因ってサスペンションがストロークした場合、あ らかじめバネを縮めておいたサスペンションは、伸び側のストロークが制限されてしまいます。
 たしかに、普通の車高調で車高を上げると不整地で跳ねるようになります。  しかし、それはバネが 固くなっているのではなく、伸び側のストロークが不足しているために、タイヤが宙に浮き、着地する際 にタイヤがバウンドしているだけです。  決して、バネレートが上がっているのではありません。
 また、ボディが大きくリフトした際にタイヤが浮いてしまうと、その瞬間に摩擦力はゼロになりますか ら、横Gを受けた状態では挙動を乱す原因となり、極めて危険です。

 では、何のために全長調整式車高調があるのでしょうか?

 ちょっと発想を換えて考えてみましょう。

 全長調整式でない普通の車高調において、著しく車高を下げると、バネはどうなってしまうでしょう か?
 自由長の長いバネでなければ、ダンパーのロッドが伸びる方向に大きくストロークした際に、バネが 遊んでしまうことになるでしょう。  この状態は、整備不良で検問などに引っ掛かるばかりでなく、実走 行において危険です。
 そのため、全長調整式でない普通の車高調は、車高短時に起こるバネの遊び対策として“ヘルパー スプリング”という部品を用います。  これは、バネレートの低いバネを挟むことによって、本来のバネ が遊ばないようにする単純な仕組みです。
 ところが、このヘルパースプリングというヤツ、結構厄介な代物なんです。
 具体的な例を挙げて検証してみましょう。
 自由長〜線間密着まで有効ストローク3cm、バネレート3kg・mmのヘルパースプリングをバネレート8 kg・mmのバネに取り付けたとします。  クルマのサスペンションは構造上レバー比が絡みますから、タ イヤに掛かる静止荷重と、バネに掛かる静止荷重が異なります(精緻に言うとブッシュの捩れなども絡 むのですが計算が面倒になるので省きます)。
 レバー比3/4のクルマであれば、タイヤに作用するバネレートは9/16になります。
 ですから、8kg・mmのバネはタイヤに4.5kg・mmで作用するわけです。  同様にバネレート3kg・mm のヘルパースプリングは、タイヤに1.69kg・mmで作用します。  また、ヘルパースプリングの有効スト ローク3cmは、タイヤの上下動で4cmになります。

 このことを踏まえて、バネの動きを見てみましょう。
 (この例におけるサスキットのプリロードはゼロです)

 ヘルパースプリングは、バネレートが低いので、小さな荷重で容易に縮みますが、この時、本来のバ ネも同時に縮みます。
 ヘルパースプリングが線間密着するのに必要な1輪あたりの荷重は1.69×40=67.6kg。  ところが、 この荷重で本来のバネも67.6÷4.5÷4×3=11.3mm縮みます(本来のバネのみの場合、67.6kgの荷重 を受けてタイヤは縦方向に15mm移動する)。
 ある1輪の静止荷重が300kgだとすると、ジャッキアップから1Gまでに縮むタイヤ〜フェンダー間の距 離は、ヘルパースプリング付きの場合、40+300÷4.5=106.7mmです(ヘルパースプリング無しの場合 66.7mm)。
 つまり、荷重移動および荷重移動に伴って発生する質量の偏りに因って荷重が小さくなり、ボディがリ フトした場合、タイヤの縦方向移動量66.7−15=51.7mmまでは本来のバネのみが機能するため、タイ ヤに作用するバネレートは4.5kg・mmですが、それ以上は、本来のバネとヘルパースプリング両方が機 能するため、タイヤに作用するバネレートが小さくなるのです。

 では、どれくらい小さくなるのでしょうか?

 ヘルパースプリングに1kgの荷重が掛かった際に縮む量は、0.333mm。  一方、本来のバネに1kg の荷重が掛かった際に縮む量は、0.125mm。  つまり、1kgの荷重に対して0.333+0.125=0.458mm 縮むのですから、全体のバネレートは1÷0.458=2.18kg・mmになります。
 サスキットのバネレート2.18kg・mmがタイヤに作用するバネレートは2.18×9÷16=1.23kg・mmでしか ありません。
 つまり、51.7mmを超えてリフトしてしまうと、いきなり73%もバネレートが下がってしまうのです。
 これが操縦性に悪影響を及ぼさない筈がありません。
 つまり、ヘルパースプリングとは、
○:ボディが大きくリフトしても、タイヤの接地圧が確保できる(もちろん、ダンパーのストロークもしくは サスペンションのストロークを超えない範囲で)。
×:本来のバネの自由長まで伸びる前にヘルパースプリングが作用してしまうため、ボディのリフト量が 大きくなくてもサスキットのバネレートが急激に低下する。
 な代物なワケです。
 ですから、全長調整式車高調の目的とは、この厄介なヘルパースプリングを使わないことにあるので す。

 でも、全長調整式車高調でなくても、車高短で遊ばず、しかも伸び側のバネレートを変化させない方 法はありますよね。
 オーリンズなどのように極端にバネレートが低いヘルパースプリングで、車高短の際に起こる本来の バネの遊びを抑えてやればイイんですよね。

 では、全長調整式サスキットと、極端に低レートなヘルパースプリングの違いは何なのでしょうか?

 全長調整式でない普通の車高調のダンパーは、ノーマルの車高からベタベタの車高短までストローク します。 したがって、ダンパーのケースとロッドが長く作られています。  そのために重量が嵩みま す。  また、長いロッド故にベタベタの車高短にした際は、バネが線間密着する前に、ダンパーのロッ ドがケースの底を突いてしまう恐れがあります。

 これが全長式車高調では、バネのストロークだけロッドが動けば良いのですから、ダンパーのケース とロッドは必要最低限で良く、軽く作ることができます。  車高調の重量は、バネ下重量ですから、軽 ければ軽いほど路面の追従性などに貢献する好結果が得られます。  もちろん、バネが線間密着す る前にダンパーのロッドがケースの底を突いてしまう恐れも(セッティングを間違えない限り)ありません ※注)。

 だから本気仕様には全長調整式車高調が好まれるのです。
 プリロードは関係ありません。

※注:ただし、このメリットが生かせるのは、ストラット式フロントサスペンションのようにブラケットが横に付いている場合、およ び、アッパーマウント〜サスペンション取り付け部までの距離が長い場合に限られます。
 サスペンションアームへの取り付け部がダンパーケースの底にあって、なおかつ、アッパーマウント〜サスペンション取り付け 部までの距離が短い場合は、(全長調整式車高調は、その構造ゆえにダンパーのストロークが普通の車高調よりも短くなるた め)ダンパーのストロークがバネのストロークよりも短くなってしまう恐れがあります。

 さて、公道も攻める仕様における全長調整式車高調の話は以上の通り。



 しかし、極めて平滑な良コンディションを走行ラインに選ぶことが可能な「金の掛かったサーキット」だ けを攻める仕様の場合に限り、少し変わったプリロードの使い方が可能になります。

 まずは、わざわざプリロードを掛けてサスペンションのストロークを制限するなんてことをしていない車 両について考えましょう。
 こうしたクルマが高速で、あるいは、小さな半径で旋回し強い横Gを受けると、クルマは大きくロールし ます。  ロールすること自体が悪いワケではありませんが、「ロールに伴って質量が偏って荷重移動 が大きくなってしまうこと」、および、「ロールに伴ってアライメント変化が大きくなること」に因って本来発 揮できるハズの求心力が発揮できなくなることがあります。

 こういうシチュエーションにおいてプリロードを掛けると、イン側サスペンションの自由な伸びを制限す ることに因って、ロールを抑制することが可能になります。 

 つまり、プリロードはロール抑制に効くのです(※)
 しかし、プリロードがロール抑制に効いている状態は、イン側サスペンションが伸び切っている状態で あり、路面の凹凸に追従することができません(凸の入力に対して縮むことは出来ても、凹の入力に対して伸びるこ とが出来ない)。  したがって、このロール抑制が、質量の偏りやアライメント変化を抑えて求心力を向 上させることが出来るのは、凹凸やうねりが殆どない極めて平滑な路面状態が前提条件になります。

 ということは…

 たしかに凹凸やうねりが殆どない極めて平滑な路面状態であれば、プリロードに因ってロールを抑制 し、求心力を向上させることが可能になります。  しかし、そのような特殊な状況であれば、スタビライ ザーの「独立懸架方式のメリットが薄れる(つまり、一方のサスペンションへの入力がもう一方へ影響してしまう)」と いう欠点が現れません。  つまり、凹凸やうねりが殆どない極めて平滑な路面状態であれば、強化ス タビライザーでロールを抑制してもデメリットは殆ど無く、その場凌ぎで辻褄合わせするのでない限り、 敢えてプリロードでロールを抑制する必然はないのです(逆に言うと、スプリングやスタビライザーの変更などとい う手間を省いて、その場凌ぎの辻褄合わせをするなら、プリロードでロールを抑制してもイイんだけどね)

 もちろん言うまでも無く、プリロードでロールを抑制してしまえば、そのコースに路面状態の良くない高 速コーナーがあれば求心力が著しく低下します(悪影響度はスタビ以上)。  ですので、公道派(いえ、公道を 奨励するわけではないのですが…(汗))の圭坊としては、全長調整式車高調のプリロードセッティングは「ゼ ロ」を推すのデス。



※:2006.09.30かめ様より御指摘賜りましたので注記させて頂きます。
 ロール抵抗は重心とロールセンタの距離で決まりますから、プリロードがイン側サスペンションの伸び を途中で止めることに拠ってロールセンタ位置が変化すれば、ロール抵抗も変わると考えなくてはなり ません。
 その点について考察すれば、ロールが増える要因と減る要因があることに気が付きます。

■ロール量が増える要素■

◆ 同じ荷重移動量に対してロール量が少なくなれば、[ 車体の傾き ] と [ アーム類の角度 ] との関 係が変化する → たとえば、ストラット式サスペンションの場合、アウト側ロワアームの角度が急(垂直 に近い)な程ロール抑制効果が高い → 同じ荷重移動量に対してロール量が少なくなれば、ロワアーム の角度が見掛け上水平に近くなる → アウト側サスペンションが持つ [ ロワアームのアンチロールジオ メトリ ] が小さくなる → アウト側サスペンションの縮み量が増える。

◆ イン側サスペンションが伸びないことによってスタビの捩れが減る → スタビの拘束力が弱まる →  ロールが増える

□ロール量が減る要素□

◇ イン側サスペンションが伸びて、アウト側サスペンションが縮むから重心高さは変化し難い。
 しかし、イン側サスペンションが伸びなくなると、その分だけ旋回中の重心が低くなる → 荷重移動量 は重心高さに依存しているため、重心が低くなると荷重移動量が減る → ロールが減る。

・・・です。

 ただ、プリロードがイン側の伸びを途中で止めてしまっても尚、ロール量が減らない、あるいは、ロー ル量が逆に増えるという現象が起こるためには、[ (プリロードがイン側の伸びを止めてから以降の)ア ウト側縮み量 ] が相当に大きくなければなりません。

 具体的に言うと、
 (1)プリロードがないクルマを用意します。
 (2)このクルマが旋回時に、イン側サスペンションが5cm伸びてアウト側サスペンションが5cm縮んだ とします。
 (3)このクルマのサスペンションにプリロードを掛けます。
 (4)同じシチュエーションの旋回時に、イン側サスペンションが3cm伸びたところでプリロードに当たっ て伸びが止まりました。
 (5)プリロードの掛けられたクルマのロール角がプリロード無し状態と同じか、あるいはそれ以上にな るためには、アウト側サスペンションの縮み量が7cm以上必要です。

 ・・・そして、上述の ■ロール量が増える要素■ と □ロール量が減る要素□ だけでアウト側サスペ ンションの縮み量が2cmも増えることはないでしょう。

 実際にどれだけロール量が減るかは、実験&測量してみなければ分かりませんが、プリロードに当 たってロッドの伸びが制限されればロール量は減ります。  ただし、伸びるハズの量が制限された分 が丸々ロール減にはならないでしょう。  その点は留意する必要があります。


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